第26話 涙

「ゴブリンだ! まだゴブリンがいるぞ!!」


 騎士団の拠点についたメドさんがそう叫んで剣を抜く。そうだよな、この人は知らないよな。


「えっとそいつは……」

「やめろメド。そいつは敵じゃない」


 自分の言葉に被せるようにデンドさんがそういった。けどそれでメドさんは納得しない。当然ちゃ、当然だけどね。だってあれはゴブリンだ。朝方まで狩ってたモンスターだもん。そもそも冒険者の皆さんには敵でしかない筈。

 メドさんの後ろの皆さんも武器を抜いてる。けど見えるのはゴブリン1匹だけ、拍子抜けしてる人も中には入る。でもそれも仕方ない。だって二十人はいるのに立ってる魔物はゴブリン1匹だもんな。

 メドさんがなんて言ってこの人たちを率いてきたのかはわからないが、これではなかなか立つ瀬がない。けど本当ならものすごく頼りになってたであろう人数。メドさんは最善を尽くしてくれた。ありがたい。

 

「ふざけるなよデンドさん! あれは敵だ! どう見ても!!」

「わかる。ああお前の言うことはもっともだ。けどこのゴブリンは敵じゃないんだよ」

「だがあの首元の赤いのは……」

「あのゴブリンは理性を取り戻してる。実際おとなしいだろ?」

「確かに……じゃあもう?」

「ああ、彼女が決めてくれたよ」


 そう言ってデンドさんはメルルを指す。するとメルルのやつは小さくなって隅っこに逃げた。相変わらずのやつだ。けどやっぱりメルルのあの魔法で決まったか。最大火力はやっぱり魔法だ。

 そんなメルルは担がれてる自分に気づいたのか、メガネに涙をためてる。おいおいそれで見えるのかよ? 


「ルドラ無事だったか」

「この人たちに助けられたよ」


 その言葉を聞いてドラゴがお礼を告げて背負うのを変わった。ふう、なんだか気が楽だな。やっぱり知らない人よりは知ってるやつがいい。


「ひどい有様ですね。それにしても一体何が……こうなった経緯を詳しく聞かせていただけますか?」


 よく通る声でそういったのはストレートな黒髪が眩しい出来る女風の人だ。てか気づかなかったけど、この人だけ格好が違う。何か見たことある制服のような? 


「職員の姉ちゃんか、確かに詳細は知りたいよな。けどそれはこっちも同じだぜ。そこの騎士さんから先に尋問していいか?」

「話に聞いた限りでは、騎士がこの森で凶悪な魔物を製造してた……とのことでしたね。そのゴブリンは気になりますが、貴方達が気にしてないのなら大丈夫なのでしょう。勿論話は全て聞かせてもらいますが」

「ああ、そこらへんは街でな。とりあえずこの騎士だ」


 そういうデンドさんは騎士は街で取り調べしたくないようだ。街に戻ると何かまずいことでもあるかのよう。けどそれはギルドのお姉さんも心当たりがあるようだ。


「そうですね。街に戻ると駐留してる騎士団がきっと出てくるでしょう。そうなるとこの事態事もみ消されるかもしれません。と、いうわけで多少手荒になっても仕方ないですよね?

 冒険者というのは荒くれ者の集団なので」

 

 彼女はいい笑みをして騎士にそう告げた。その笑みに何を感じたのか生き残った数人の騎士は「自分たちは何も知らない」とそういった。結局は下っ端。そんなところだろうとは思ってた。

 けど聞いておかないといけないことがある。


「これは、何ですか?」


 そういって自分は赤い石を出した。ゴブリン達に埋め込んでたこれ……これがゴブリン達を飛躍的に強くしてた。一体これは何なんだ?


「知らん……ただそれをゴブリンに埋め込めと言われたんだ。そして勇者を殺させろと」


 ザワッと周囲の人たちの雰囲気が変わった。勇者……そのワードに反応したんだろう。そして今代の勇者の噂はお察し……そんな中誰かが問う。「勇者は誰か」と、そして視線は自然とこちらに向いた。

 それはそうだろう。デンドさんたちはありえないと冒険者たちは知ってる。だとしたらこの場にいる知らない面子に視線が集まるのは必然。そしてきっと誰もがそれはドラゴだと思ってるだろう。

 だって背負われてる無様なやつよりも逞しくて業物っポイ剣を携えてるやつ……どっちが勇者に見えるかっていえば圧倒的に後者だろう。


「いや、俺は違うぞ」


 空気を読まないドラゴがそういった。折角脇役に徹してたのに……こうなったら仕方ない勇者らしく名乗ってやろう。


「自分こそが今代の勇者ルドラだ! みなさんよろしく!!」


 とりあえずありったけの元気で行ってみた。けど自分の姿を見てみなさんの空気が冷めるのがわかる。やっぱり噂通りだと思ってるんだろう。失望……されたかな? 噂に違わぬ最弱だと思われただろうか?

 そう思って顔を伏せた時、この場に豪快な笑いが響いた。それはそれは豪快でこの森中に響いてるんじゃないかと思えるほど。それはデンドさんだ。彼は豪胆に笑った後笑みを浮かべてこう言った。


「そうか、勇者か! 納得した! 確かにお前は勇者だったぞ!!」


 その言葉が胸に刺さる。勇者? 自分が? そんなことを言われたのは初めてで……何かが胸にこみ上げてくる。だから自分はドラゴの背に顔を隠した。だってきっと見れない顔してるから。

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