第25話 願い

「綺麗だな」


 空に昇る光を見つめて自分はそう思った。メルルの魔法の光は本当に綺麗だ。最初に見た時、一目惚れしたものだ。あれだけ凄い才能なのにあいつは誰にもその魔法を見せずにいつだって怯えてたものだった。

 けどいつからか少しは自信をつけるようになった。そして、なんとか口説き落として、同行してもらった。その選択に間違いなんてなかったと自信を持って思える。


「ありがとう」


 最後かのような言葉。けど自分ではもうどうすることもできない。この高さから落ちることを拒否することは不可能。死ぬのかな? そう思って目を閉じる。死にたくないと思って何かに祈る。

 神様になんか祈らない。だって神様は敵だから。こんな運命に自分たちを追いやった敵。あの日、あの時、あの瞬間、神様は自分たちを裏切ったんだ。その光景は寝るたびに夢に見る。

 死んでしまえばそれもなくなる。自分は大きく息を吸い込み空気を肺に満たす。そして吐き出した。


「誰かああああああ! 助けてくれええええ!!」


 精一杯叫んだ。それは魂の叫びと言って差し支えない。死にたいなんて、許されない。それは勇者だから……なんて安っぽい理由じゃない。約束してるから。魔王と相対するまで自分は死ぬわけにはいかない。

 木に突っ込んで枝が体を鞭の様に打つ。これで少しでも勢いが衰えれば? それか枝に捕まることができれば……もしかしたら。そう思って手を伸ばすけど、左手ではそもそもこの勢いを止めて枝を杖むことなんて不可能だった。地面はすぐそこ。

 するとその時、地面に水が現れた。それは丸い水球。そこに自分は突っ込んだ。それでも地面が迫る。勢いはかなり削られたはずだけど、それでも止まりはしない。ぐちゃっといくか? でもなんとか死にはしないで済むかな? とか考えて痛みに備える。


(ん……ん……うん?)


 いつまでたっても痛くない。なぜだ? と思ってると頭上の方から声が聞こえてきた。けど水の中だからかはっきりとは聞こえない。てかなんで上にいるのか? だって自分は地面に落ちたはずでは? 

 いっぱい疑問が浮かぶ。でも取り敢えず死んでないからなんでもいいかと思う。死ななければ万事オーケーだ。


「大丈夫かい?」

「シンさん……ってことはこの人たちは援軍の?」

「ああ、そうだ。魔法で君を助けてもらった。声が聞こえたからね」

「はっは……ありがとうございます」


 水から出るとそこには沢山の冒険者風の人々がいた。この人達みんなにあの叫びが聞こえたと思うと恥ずかしい。けどあれのおかげで自分の存在を知らせることができたんだよな。そう思うと良かったと思える。あれがなかったら確実に死んでた。


「それで戦況は? さっき見えた光はなんだ?」

「あれはメルルの魔法の光です。あれを撃ったってことは全部終わった……筈ですけど」

「何? じゃあ俺は間に合わなかったってことか?」

「いえまだわかりません。行ってみましょう」


 そう言って立ち上がろうとして自分はふらついた。それを冒険者の一人に支えてもらう。


「酷い状態だぞ君。ほら背中に乗りなさい」


 そう言って背を貸してくれる。ありがたい。実際もうヘトヘトだ。この援軍を見て緊張の糸も切れたみたい。騎士たちの拠点に走り出すみなさん。自分は背にしがみついてゆらゆらしてた。

 自分が落ちた場所には大きな穴がある。どうやらあの水で自分を受け止めて、地面を操る魔法で勢いがなくなるまで地中をえぐってたみたいだ。すごい発想だな……と思った。でも、おかげで助かった。

 自分は頭を振って気をしっかり持つ。まだ安心するのは早い。メルル、ドラゴ、デンドさん、メドさん、スーメランさん、それにあのゴブリン……みんなが無事でいてくれますように。そう心で願う。

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