第23話 心
「ヤバイな……」
そう呟くデンドさん。その視線の先にはスーパーなゴブリンの姿が見える。そしてそれと相対してるのは騎士団の連中だ。おかしなゴブリンと和解して怪我人の治療を終えると再び自分たちは動き出した。まあ治療を終えたと言っても、ほぼほぼ傷を塞いだだけみたいな感じだ。あんまり激しく動くとまた傷が開く可能性がある――その程度の状態だ。
だから戦闘は増援が来るまで控えたい所……でもそうも言ってられないかもってのが今の状況だ。スーパーゴブリンにまでなってる奴等は流石に強いみたい。騎士団もなかなか踏ん張ってるが、このままでは全滅しそう。多分一体ずつなら負けなかったんだと思う。でも同時に三体来ると、流石に厳しいものがあるみたい。まあ同情の余地はないんだけど……
「びんな……」
そういうのはゴブリンだ。こいつがいる手前、ゴブリンを相手取るってのが難しい。てか大丈夫なのか? 騎士を目の前にしてるんだ、理性とかさ?
「だいびょうぶだ……だいびょうぶじないげど……だいびょうぶ」
どっちだよ、と言いたいきもしたけど、きっとこいつ自身が複雑な感じになってるだろうからそう言うしか無いんだろうと思う。きっといろんな感情が渦巻いてるんだろう。だってあのスーパーゴブリン達はここに捕まってた残りのゴブリンも理解せずに殺してた。ぺしゃんこになったその姿は騎士の仕業ではないとわかる。理性を失ったスーパーゴブリンにはもう既に同じ種族だった奴等さえも記憶にない。
ただ目の前の生物を殺す……それだけを行う正真正銘のモンスターと化してる。
「騎士がやられる様はスッキリするのか?」
ドラゴの奴がそう質問する。ゴブリンはグッと拳を握って言った。
「ああ……あいづらはゆるぜない。でぼ、このででやりだがっだ」
やっぱりそうだよね。誰かがやるのと自分がやるのとは心の落ち付け所が違うだろう。よくわからないがそう思う。
「げど……どうほうだちのあれがじぶんをぜいせいにじでるぎがずる。じぶんもああばってだとおもうど……」
「お前……ゴブリンなんだよな?」
ドラゴはもう何度目かその言葉を口にした。よっぽどドラゴの中のゴブリンとこのゴブリンは違うようだ。あんがい堅物の所あるからなこいつ。自分はもう受け入れたぞ。でも長年魔物と戦ってきたであろうデンドさん達もドラゴと同じようだ。自分たちの常識とはこのゴブリンは違う場所に居る。だからなかなか受け入れがたいのはわかる。
デンドさん以外のメドさんやスーメランさんはこのゴブリンと話そうとはしない。てかいまだに警戒してる。それはしょうがないことだと思う。だってゴブリンだからね。この人達にとっては敵というその感覚を消すことは難しいだろう。メドさんとか刺されたしね。それを言うならデンドさんもだけど、あの人はほら……豪快だから……
騎士は一人また一人と血しぶきを撒き散らして倒れていく。既に最初に見た時の半分以下。それなのにまだ一体もスーパーゴブリンは倒れてない。これは勝ち目がなさすぎる。どうにかして撤退したい所なんだろうけど、三体のゴブリンのスペックは騎士達によって限界突破してる。それが仇となって自分たちの逃走を阻んでるなんて因果応報だ。
でもこのまま騎士が全員死ぬとあのスーパーゴブリンが野に解き放たれてしまう。このゴブリンには悪いけど、やっぱりあの三体は殺すしか無い。それに騎士は一人ぐらい残しとかないと情報が取れない。けど下手に出ていくと手負いのこちらも全滅しかねない。
「どうすれば……」
「おれがぎごう」
ゴブリンはそういった。なぜ? という心の声でも聞こえたのか、ゴブリンは続けていった。
「あればぐるじいんだ。おればよぐじってる。どめでやらないどいげない。うらみばぎっどはらじた……もうじゅうぶんだがら、おれがどめる!」
そう言ってゴブリンは進み行く。その心にきっと皆が思ったはずだ。人も魔物も無いんだってことを。
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