第15話 考える

「さて、どうしましょうか?」


 自分から助けたい言っといてなんだけど、その方法はわからない。今現在同族と死闘を繰り広げてるし、モタモタとしてるわけにもいかない。けど、下手に介入するのもどうかと思う。


「俺たちの姿を見たら残ってる理性も吹っ飛びかねないよな……」


 それだよ。ドラゴが言ったことにうんうんと頷く。まさにその通りで、自分はそれが心配だった。だってそうだろう。今は同族同士で戦ってるとはいえ人を見たらそっちに来る確率が高いと思われる。

 なんてったって、彼らの根本の怒りは自分たち人間に向いてる。だから自分たちを見るとその怒りはまず間違いなく今よりもたぎるのではないだろうか? そうなるとドラゴが言ったように涙を流したその感情さえも消え去るかも。

 そうなるともう殺すしかない。決して分かり合えないとわかってても彼らには同情せずにはいられない。だから助けたい。そのあとにどうなるか、どうするかなんてわかんないけど……


「憤怒……混乱……催眠……」

「え?」


 メルルの奴がメガネの前で指を輪っかにしてゴブリンを見てそう言った。何を見てる? 


「ちょっと状態異常解除……の魔法……使ってみる」


 なるほど、メルルは魔法でゴブリンがどういう状況なのかを見てたのか。それで上記の異常を観察できたから今度はそれを解除する魔法を使ってみると。合理的な方法だ。けど残念ながら効果はなかった。

 上手くいけばこれで正気に元ってくれるかも……と淡い期待をしたんだが、そう簡単にはいかないらしい。


「魔法がかき消された……」

「どういうことだ?」

「多分……あれ」


 そう言ってメルルはゴブリンの首に生えてる赤い鉱石を指し示す。あれが魔法を打ち消してるということか。つまりはあれが体内に埋まってる限り、状態解除の魔法は意味をなさない。多分あのゴブリン達を憤怒に支配させてるのもあれだ。

 一体なんなのかはわからないけど、あれをえぐりだせばなんとかなるのか? そんな自分の思いを見透かしたようにメルルはいう。


「おすすめ……しない。あの表面に見えてるのは……一部でしかない。私達が回収してたのは……その一部。死んでたからそこだけ取れた。けど、生きてるうちは……あれは何度でも出てくる」


 メルルには何かが確実に見えてるんだろう。その言葉は確信めいてる。


「力でどうにかできないとなると弱ったな……」


 デンドさんが頭をかく。この人は基本自分の力を信じてまっすぐ行く人なんだろう。頭を使うのが苦手ってわけではなさそうだけど、彼は経験に沿って作戦とか立ててるようだし、こんな事態は初めてだからどうすることが正しいのか判断に迷ってる感じ。

 

「こうなったら突き抜けて見るってのはどうですか? 怒りを全て吐き出させれば、最後に自我だけ残ったり……」


 そういうのはメドさんだ。確かにそんな可能性もあるか? でも高確率で現状よりもやばくなる可能性が高い。それはできない賭けだ。怒りを出し切るってのはいい案のような気もするけど……一時的にでも奴を満足させることができれば?


「メルル……後どのくらい魔法使えるんだ?」

「大きなのでなければ……それなりに。大きいのは後一・二回」


 メルルにとっての大きいと小さいの基準が自分にはよくわからないんだけど……とりあえず聞いてみよう。


「怒りを発散させるってのはいいと思います。けどより怒りを増幅させる方に行くのは多分まずい。そして今の相手はそっち方面に行くと思うんだ」


 その自分の言葉にみんなは頷く。同胞と殺しあってるんだからそうなる。現にあの涙が証拠。


「あいつには夢でも、幻でもああなった元凶である騎士を倒させるしかないと思う」

「つまり……あのゴブリンに魔法で幻を見せる?」


 自分はそのメルルの言葉に頷くよ。けど、それだけでは足りないと思う。今の怒り全部を発散させるんだ。幻だけじゃ足りない。


「自分たちを騎士の姿に見せることは可能か? 戦って追い詰めて、それで最後にはその怒りを全部載せて倒させる。それしかない」

「最後だけ、自分が勝った情景に……すり替えるんだね。わかった」


 メルルの魔法は万能であった。幻術が効くのはデカイ方の改造ゴブリンで実証済み。よし、やることは決まった。自分たちは全ての準備を整えてゴブリン達の前へと出る。

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