第16話 憤怒
(目の前の相手が憎い……いや、憎くない。でも許せない。止まらない。殺したくなんてないのに……殺されたくなんてないのに、この体は言うことをきかない)
互いに既にボロボロ。お互いを傷つけていく度に無かった筈の憎悪は生まれて、その手に力がこもって行くのがわかった。本当にこんなことを望んでなかったのかすら分からなくなる。自分の本当の望みは……
「あが!?」
背中に走る痛み。見てみると知らない人間が……いや、こいつは……ドサッと聞こえる音の方を見ると、さっきまで死闘をしてた同胞が倒れてた。そしてその背後には同じ甲冑を着た奴が見える。その瞬間、頭が一気に沸騰した。いままでも沸騰してたといえるけど、その沸騰は体の方で頭はこんなことを止めたいと思ってた。けど、今この瞬間は違う。
こいつらを殺してやりたい――心の底からそう思う。理性的であった頭さえ。心と頭の一致。湧き出す憤怒の心。自分自身が、全く別の何かになっていく感覚。それとは別に頭は鮮明になっていく。怒りすぎて逆に冷静というか……変な感じだ。でも目の前の人間は殺す。限りなく冷静に、でも溢れ出す憤怒は限りなくそう思う。
「ガアアアアアアアアア!!」
後ろの奴に向かって剣を振るう。余裕をもって避けられた。だけどそれでいい。距離を開けたかったんだ。そして同胞の側にいる騎士にも剣を振るって退かせる。足元の同胞を見る為に膝をおり容態を確かめる。その目は虚ろで、けど憎しみは色褪せずにその瞳に映ってた。でももう駄目だろうこともわかる。また目の前で死ぬ。人に殺されて……
胸の辺りが凄く熱い。それと共に力が溢れ出る感じがした。
(許さない)
その言葉が頭を支配して、目の前の騎士に後悔という念を抱かせようと動き出す。左手に今しがた死んだ同胞の剣を持ち、両手に武器をもって騎士へとむかう。片手の剣を防がれる。けどもう一方を振るう。それで肉を抉る。いい感触だ。更に追撃をかけようとして邪魔が入る。だけど問題ない。どっちも殺すんだから。体は怒りで満ちている。でも頭は冷静。
だからか余裕をもって対処できる。殺そう……なんとしても。
「くそっ……」
そんな言葉が口から出る。何故かというと、自分は草の影から見守ることしか出来ないからだ。武器をなくし腕をなくした自分は足手まといにしかならない。だからこうなるのは必然だった。やる気満々だったのが恥ずかしい。普通に考えればこうなる。本当に当たり前だ。一応もしもの時を考えてデンドさんの予備の短剣を借りてるけど、使い慣れない上に持つ手も左手しかない。
こんなんで戦闘に参加するとか自殺行為だとわかってる。だからドラゴとデンドさんを信じるしかない。
「大丈夫……だよ」
「いくら普通と違うと言ってもゴブリン程度に遅れをとる二人じゃない。そうだろう?」
メルルとスーメランさんの言葉に自分は頷く。確かにデカくもないゴブリンは二人共余裕だろう。心配する要素なんてない。寧ろ、心配なのはゴブリンの方。上手くいくのかどうか……けどどうやらそれは違ったようだ。あのゴブリンはどこか普通と違う。剣を両手に持ったときから変な違和感というか、凄みを感じてた。相変わらずその体からは怒りが迸ってるように感じるがその目はなんだか冷静なような?
わからない……けど、二人が押されてる。これはなんだか不味いように感じる。あのゴブリンに一体何が起こってるんだ? このままじゃダメだ――と自分の頭が警鐘を鳴らしてる。
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