第8話 騎士団

「何やってるんだ?」


 体を隠しながら自分たちは少しずつ騎士団たちに近づいていった。ゴブリンと一緒にいると言っても騎士団がゴブリンたちを囲ってる感じ。まるで逃げ出さないようにしてるかのよう。

 そしてヤケに嫌な空気を感じる。そう思ってると、騎士団の一人が「そろそろまた始めるか」とか言い出して一匹のゴプリンを引っ張ってこさせる。ゴブリンは必死に抵抗しようとしたけど、何回か剣で手足を切られると抵抗もなく引きずられていく羽目に……そしてさらに連れてかれた先では待ってましたと言わんばかりに剣の腹でゴブリンを滅多打ちにしてやがる。

 

(おいおい、いくらモンスターだからって……)


 思わずそんなことを行ってしまいそうになる光景だ。確かに奴らはモンスターで人を襲う。遭遇すれば戦って命のやり取りをするのは当たり前だ。けど……これは戦いなんてものじゃない。

 それをみんな感じてるのか苦しそうな顔して何も発せない。それだけ目の前の光景はひどい。屈強な騎士達が、一匹のひ弱なゴブリンをいたぶって笑ってるんだからな。胸糞悪いにもほどがあるってもんだ。

 騎士は誇り高くあるべきじゃなかったのか? その剣は国を守るための崇高なものじゃなかったのかと言いたくなる。あんなのはそこらのゴロツキと変わらない所業だ。いや、もっとたち悪いかも……

 

「さて、そろそろいいか。たっぷりと絶望と恐怖、それに俺達に対する憎しみこもった目。その思いがどんだけなのか証明して見せろ」


 そう言って多分隊長格の奴がピクピクとしか動かなくなったゴブリンに近づいてく。そして腰に下げた袋から指でつまむ程度の赤い石を出した。

 

(あれは!?)


 自分は視線をみんなに送る。するとみんな頷いた。いやメルルだけはよく見えてないのか……いやその前にゴブリンの虐待の場面で手で顔を隠してた。まあそれはいい。皆、同じ結論に至ったようだ。

 赤い石をゴブリンの傷口に押し込む。そして森に響く聞きたくもないゴブリンの断末魔。ワザと叫びを助長させるようにグリグリとキズ口に押し込むその様さえ胸糞悪い。そして次第にゴブリンに変化が現れる。

 断末魔が獣のうねりのように変わり、体が大きく跳ね出す。そして身体中に筋が浮かび、筋肉が膨張し出す。体も少し大きくなってるような……口からよだれが溢れ出しキズがみるみるうちになくなってく。目は赤く輝き、理性なんて感じられない。

 

「何度見ても面白いな。これでこっちの言うことさえ聞くようにできれば、いい捨て駒になれるんだがな。まあいい、やれ」


 そんなことを言ってる間に、ゴブリンは立ち上がり殺意を持って隊長格の奴に飛びかかってた。けど、用意してたんだろう魔法がゴブリンの顔に薄い膜を張るとガクッと倒れた。眠らされた? 

 そして他の騎士達が数人がかりで陣の外に引っ張っていった。どうやらここであの鉱石入りゴブリンを作り出して適当なところに捨ててるようだな。なんて傍迷惑ことをしてるんだ。

 あんなことをして作り出したゴブリンは人への殺意が普通のゴブリンの比じゃない。多分だけど、自分を始末するためにあんなのを作り出してるんだろうけど、この森を出て街に行ったらどうする気だ? 

 全く関係ない人を襲うかもしれないんだぞ。騎士団のやることじゃない。すべての騎士団があんなんじゃないとは思うけど……こいつらは騎士なんて名乗れる奴らじゃない。ゴブリン相手に正々堂々なんて言う気はないけど……これはない。

 しかもこんなことを嬉々として奴らはやってる。

 

(自分のせい……なら、その責任は自分がとろうじゃないか)


 そう思うけど、ここは一旦引いて皆んなと相談することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る