第3話 望まれるのは

 扉を開けると視線が刺さる。騒がしい喧騒が一瞬だけ止まってそして何事もなかったのように騒ぎ出す。並べられた長机には様々な年齢の人たちが座ってて酒をあおってる。まあ騒いでる人たちばっかりでもないけど、大体は酒をあおってる。

 まだ昼間だというのにそんな羽振りがいいのだろうか? 聞いてたのとちょっと違う。まあだけど沢山人がいるのはいいことだ。

 酔ってるやつは論外だけど、比較的まともそうで優しそうな人を探すか。

 

「本当にやるん……ですか?」


 メルルのやつが心配そうにそう言ってくる。大きな丸メガネの向こうの瞳がすでに帰りたいと訴えてる。こういうところ苦手だもんな。外で待ってても良かったんだけどな……まあ今更だ。


 ここは冒険者ギルド。各町に必ず一つはあるその施設は冒険者たちを管理し仕事を斡旋する場所だ。な訳でここに集ってる人たちは大体が冒険者のはず。大きな掲示板には依頼が書かれた紙が張り出されてて、それをとってカウンターに持って行って依頼を受けるシステムらしい。

 まあ今は騒いでるせいで依頼を受けようとしてる人はいないようだ。とりあえず都合がいいな。自分たちは掲示板まで行って現在ある依頼をざっと見る。依頼はいっぱい。仕事しろよっと思うけど、色々と都合があるんだろう。

 

「やっぱり……ない……ね」


 メルルの言う通り、ないようだ。何がないって? それは自分たちが目指すゴブリンの発生場所への依頼だ。直接ゴブリン討伐がないのは予想通り。けど、その周囲とかその森での他の討伐もない。

 森なんだから採取とかそれこそ他のモンスターの討伐とかもあるだろうにない。これは作為を感じるな。やっぱりそういうことなのか? とりあえず新米冒険者を装って、カウンターのお姉さんに聞いてみることにした。

 

「ああ、その方面への依頼は今はさっぱりなんですよね」


 いい笑顔でそう言われた。満面の営業スマイル、プロって感じだ。何か理由があるのかさらに探りを入れてみる。

 

「うーん、ギルドへの依頼は様々ですからね。確かに一件もその方面の依頼がないというのは珍しいですけど、全くないということはないですし、それに今はそこで騎士様たちの訓練が行われてるらしいのでその影響でしょう」

「ほほうなるほど。ありがとうございました」


 一旦カウンターから離れて隅っこに自分たちは移動した。そして今,言われたことを二人に伝えた。

 

「騎士が訓練してるのにゴブリンが幅きかせるって……もう決定だろ」


 ドラゴは瞳に怒りを見せてる。こいつは真面目だからな。見た目は悪人面してるけど、人一倍正義感があるやつなのだ。

 

「依頼がないのは……目撃者とか……介入者が出ると面倒だから……」


 ぽつりとメルルもそういう。確かにそういうことだろうな。自分たちが何をそんなに警戒してるか。まだここら辺には強い魔物なんて出ないし、危険なんて少ない? そんなことないのだ。

 自分たちが警戒してるのは寧ろ魔物よりも人だ。はっきり言って自分は人類の希望になりえてない。その自覚は十分にある。自分の弱さは自分自身がよくわかってるからだ。流石にそこらのチンピラとか最弱な魔物には負けないど、チンピラも三人もいれば負けるだろうしゴブリンとかも複数だと死ぬ自信がある。

 伝え聞く勇者の力はこんなもののはずじゃないんだけど……僕には力の祝福はない。だから誰も……自分を勇者と知る者は自分が魔王を討伐できるなんて思ってない。でも問題は自分が紛れもない勇者ということだ。

 勇者は天が選ぶ。それに人類が意を唱えることなんてできない。そして勇者は世界に一人。つまりは自分が生きてる限り、人類に希望なんてない……と考えてる人はたくさんいる。

 そもそも、こんな最弱な勇者が魔王討伐なんできるわけないのに、それでも行かせるのは単純に死んでほしいからに他ならない。自分が死ねば、天は新たな勇者を選ぶだろうからだ。

 そして次代の勇者は自分よりもマシである筈、というのがお偉いさん方の考え。

 

「一刻も早く死んでほしいってことか」


 死ぬことを望まれてる勇者、それが自分だ。けど、そんな簡単に死ぬ気なんてない。

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