農協おくりびと (86)キュウリの等級と階級


 キュウリの曲がりは、キュウリ農家の悩みの種だ。  

キュウリはなぜか、曲がりやすい。

東北大学の金浜 耕基教授(園芸学)によれば、曲がる原因はキュウリがもつ、

実の構造に起因するという。


  種の部分に、ちょっとした秘密がある。

発生学説によれば、葉が変形したものを(しんぴ)と呼ぶ。

きゅうりは、この心皮が3枚寄り添った独特の構造をもっている。

3枚の心皮には、上下関係がある。

上に位置している心皮は、下の心皮よりも成長が遅い。


  太陽の光が良くあたり、光合成で作られる栄養分が充分にいきわたるとき、

心皮に成長の差は出ない。

そのため、ほとんどのキュウリはまっすぐ育つ。

しかし。天気の悪い日が続き、光合成が不十分になると栄養分の奪い合いで、

成長の差が出てくる。その結果、キュウリに曲がりが出てくる。


 光が十分にあたり光合成が活発になるよう、余分な葉は取り除いていく。

繊細なキュウリをまっすぐ育てるためには、かなり緻密な管理が必要になってくる。

光をさえぎる葉をこまめに間引きするなど、丁寧な仕事をしている農家ほど、

キュウリの曲がりは少ないという。


 しかし。最近は品種の改良が進み、以前ほど曲がらなくなってきた。

だがキュウリほど厳しくランク分けされている野菜は、他にない。

曲がりの幅が1㌢未満、長さ20~23㌢のキュウリが、最も良いキュウリとされている。

曲がりが大きくなるほど等級も下がり、価格も下がる。

4㌢以上曲がると市販品にならず、加工品に回されてしまう。


 「最盛期になると、忙しくなるから家の人だけでは大変でしょう。

 応援の人とか、パートさんを使っているの?」


 「収穫は、朝7時からはじまる。

 間に合わせるため、パートのおばちゃんを4人頼んでいる。

 3時間ほどで収穫はおわるが、キュウリ農家は、そのあとが戦争になる。

 キュウリは曲がりの等級と、大きさによって階級が決められている。

 1㌢以内の曲がりは、A級。

 B級はAにつぐ曲がりで、2㌢以内と決められている。

 C級はBにつぐもので、曲がりの程度は3㌢以内と決まってる。

 それ以上のものは販売にまわされず、加工用として漬物屋などに引き取られていく」


 「だから採りたてのうちに、手で、きゅうりの曲がりを直すのね!」


 「採りたてで、水分がたっぷりあるうちはある程度の修正が効く。

 だが強くやりすぎると、折れることもある」


 「折れてしまったキュウリは、どうなるの?」


 「ほとんどが、破棄処分だ。

 一本でもおおくA級品にしようと欲をかいた結果、廃棄していく羽目になる。

 きゅうり農家の宿命さ。別に気にすることはねぇ」


 「大きさによる階級と言うのは?」


 「18㌢から19㌢未満が、SSサイズ。

 18㌢から21㌢未満が、Sサイズ。

 21㌢から23㌢未満が、Mサイズ。

 23㌢から25㌢未満が、LLサイズと決まってる。

 だがそれだけじゃねぇ、箱詰めにもこまかい規則が有る。

 SSは1箱につき、58本から60本で、14本並びにする。

 Sは1箱につき52本で、13本並び。

 Mは1箱につき45本から48本で、11本から12本並び。

 Lは1箱につき38本から40本だ。

 どうだ。頭が痛くなって来ただろう。

 キュウリ農家は、決められた等級と階級を守って、サイズごとに

 せっせと箱詰めするんだ。

 忙しい時なんか、仕事が終わるのは深夜になる・・・」



(87)へつづく

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