〈42〉カードキー
霞以外の五人は食堂に集まって話し合っていた。
「いずれにせよはっきりしているのは、あのメディアカードに重要な何かが入っていたってことだ」
「そこに何が残ってたのかしら? だけどかすみん、本当に大丈夫かなぁ?」
玲の言葉に答えながら真奈美が食堂の入り口を振り返ったとき、
「お待たせー」
当の本人がにこにこしながら歩いてきた。
「はい、これ」
そう言って涼音にメディアカードを渡す。
「……ありがとう」
受け取った涼音の表情は、こわばっていた。
「犯人が現れたのか?」
「そういうこと。盗聴器も仕掛けられていたわ」
霞は玲に何事もなかったかのように答えた。
「その犯人は? どんな人だったの?」
「冴えない男だったわよ。30前後の。外部から侵入してきたみたい」
「……で……どうしたの?」
「現行犯で警察に引き渡したわ。取り調べをお願いしてる。だけど証拠だけは無理言って返してもらったの」
「…………」
一様に暗い表情に沈むところを見ると、みんなただならぬ雰囲気を感じとっているようだ。霞は椅子に座り、あえて明るく振る舞うことにした。
「今、わたしたちはやらなくちゃならないことがあると思う。そっちを優先させなきゃ。あと盗聴器は取り外したから研究室は使えるけど、カードキーは取り替えたほうが良さそうね」
そう言いながら二枚のカードキーをみんなに見せる。
すると、それまで深く腰掛けていた玲が体を起こした。
「博士の手がかりをもう一度洗おう。取り急ぎデック、カードキー情報の変更申請を頼む。その際、犯人が持っていたカードが誰に配布されたものなのか、確認してくれないか?」
「わかった!」
「涼音はメディアカードのデータの復元に取り掛かってくれ。今の状態だとそのまま情報を取り出せないはずだ」
「……了解」
「雅也、大学病院のソフト、解析できるか?」
「うん、やってみる」
「わたしは警察に行ってこれまでの事情を話して、犯人の特定を急ぐわね」
「ああ、頼む」
指示を受けた霞たち四人が椅子から立ち上がる。
「あれ? あたしは?」
「まなみんはここに残ってくれ」
そう言って玲は、再び深く腰掛けた。
◆◇◆
「霞さん、大丈夫だったんですか?」
廊下を歩いて研究室に戻る途中、雅也が聞いた。
「何が?」
「いや、犯人と大捕り物したんじゃないかなって」
「そんなわけないじゃない。今どき泥棒なんて現行犯の動画撮影だけで逃げられないわよ」
「え? 霞さんの端末、そんな機能があるんですか?」
「そりゃ、あるけど……(って、しまった! わたしのは一般仕様じゃないんだった!)」
「ああ、お前ら外に出てなかったから知らないんだな。オレら外出組は基本そうだぜ」
(あれ? そうだったの?)
良助の言葉に霞のほうが驚く。
「そうなんだ、知らなかった」
雅也が興味深そうに良助の端末をのぞき見た。
「じゃあオレはカードキー特定してくるからな」
「うん、わかった」
(ほっ……)
◆◇◆
研究室に入ると涼音はすぐに演算サーバーを立ち上げ、雅也も解析にかかった。霞は平静を装いながらも気持ちが落ち着かず、円卓のそばに立って思案する。
(うちの組織の中に敵が入り込んでいる以上、この件で話せる相手って限られてくるわね。けどあの犯人はいったい、何が目的だったのかしら……)
しばらくすると玲と真奈美が入って来た。
その後すぐに良助も戻ってくる。
「犯人のカードキーの情報がわかったぞ。やっぱ博士のものだった」
「そうか」
玲が答え、そのまま横目で霞を見る。
「警察に伝えてくる。犯人がどこで手に入れたのか、調べてもらうわ」
玲に向かってうなずきながら言うと霞は良助からカードキーを受け取り、研究室を出て行った。
タクシーの中で霞は再び考えを
(犯人は盗聴の話を聞いて戻ってきた。つまりわたしたちに情報を渡しておくわけにはいかなかった、ということ。だけど、盗聴器が取り付けられたのは、私たちがここに来てから? この5日間のいつかしら?)
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