〈32〉面接

「オレ、あいつらと会って、気づいたことがある」


 帰りのタクシーで良助が霞に言った。


「どんなこと?」


「チームプレーって、大事だなって」

「そっか」


「玲って、パッと見は自分勝手でプライド高そうで生意気そうじゃん。でも全然違った。今回あいつが言ってたこと、すげー当たってて、そのくせ献身的で、人の話もしっかり聞くし、全然年下に思えねー。こんな奴いたんだ、って思った」


「雅也くんはどう?」


「雅也は……そうだな、かすみんとは合わないかもしれねーな。だけど、男として一緒にいると楽しい。玲は雅也のことを凄くかってるし、まだわからない何かがあるんじゃねーかな」


「そうね。男の子のことは男の子にしかわからないのかもね」


「その雅也なんだが、あいつこれまでほとんど勉強してこなかったらしい」


「………………は?」


「博士に言われるまで、まともに勉強したことなかったんだとさ」


「……何それ? ……それであの点数……なの?」


 霞の顔がこわばる。


「あれ、意外だったか?」


「いえ……ただ……」

「ただ?」


「……殺意が芽生えたわ」

「おいおい」


「絶対許せない……」

「そこまでかよ!」


「あなた、祈っておいて」

「何を?」


「わたしが、雅也くんを手にかけないように」

「こらこらっ!」



 ◆◇◆



 翌日の合格発表で六人全員の合格が決まり、その後それぞれの学校の卒業式、大学の入学式、健康診断と続いたある日、五人は真奈美に呼び出された。


「本日みんなに集まってもらったのは、ほかでもありません。研究室の面接についてです」


 応接間でソファに座るみんなに向かって、真奈美が胸を張って告げる。


「面接……って、何?」


 どう考えても嫌な予感しかしない話に、薄ら笑いを浮かべながら雅也が聞き返した。


「みんなおじいちゃんの研究室に入るのよ。タイムマシンの研究とか、やりたいことをやるために――」


「まてまて! いきなり面接っておかしくね? 事前に言ってくれよ」


 良助が不満をぶつけながら涼音の表情をうかがう。しかし、涼音は意外と平然としていた。


「形だけよ、形だけ。ほかの研究室に行って、知らない教授のご機嫌うかがいながら下働きとか嫌だもん、あたし」


「そりゃそうだが――」


「まったく異論ないっていうか、博士の研究室って光栄なんだけど、あらたまって面接となると、なんか緊張するな」


 表情の固い玲と雅也。真奈美が溜め息をついて言った。


「自分たちで希望を出さなきゃ、ノバスコシアに勝手に割り振られちゃうんだよ? それでもいいの? あたしなんか絶対コネで入ったって思われるに決まってるんだから、形だけでも付き合ってよ」


「だから事前に言ってくれって……」


 そう言って良助が霞の表情をうかがうと、わりと固まっていた。


(というかこれって、博士、わたしとの話し合いの場を作ったってことじゃない? どうしよ……)


「かすみん、なんか顔色悪くねーか?」


「だ、大丈夫よ」


 無意識に強がる言葉が出る。


「じゃあおじいちゃんに伝えて来るね」


 真奈美が二階に上がり、すぐに戻ってきてそのまま面接が始まることになった。


「最初は雅也からよー」


「え? いきなり僕なの?」


「時間ないんだからとっとと行って!」


 真奈美にせかされた雅也が頭をかきながら二階の博士の部屋に上がって行った。


「六人面接するのに1時間くらいか?」


「五人よ」


 落ち着かない良助に真奈美が答える。


「ん? なんでだ?」


「あたし、もう終わってるから」


「何聞かれるんだ?」


「普通に『なに研究したいの? 本当にタイムマシンでいいの?』とかよ」


「だったら雅也に言ってやればいーのに」


「ダメよ。そんなこと言ったらあいつ絶対気を抜くもの。多少はおじいちゃんに気合入れてもらったほうがいいのよ」


「お、良くわかってるな」


 玲が言ったところで雅也が戻ってきた。時間はちょうど10分。


 次は玲の番。入れ替わりで応接間を出て行く。


「どうだった?」


 良助が雅也にたずねた。


「普通に『何研究したいの? 本当にタイムマシンでいいの?』とかだった」


「なんて答えたの?」


 雅也にお茶をいれながら真奈美がそれとなく聞く。


「それは内緒。一応面接だから他の人には言えない」


「オレも準備しとこ……って、次は涼音か」


「あ、涼音はそんなに緊張しなくていいからね」


「……大丈夫」



 心配する良助と真奈美に涼音が笑って答えたところでちょうど10分。戻ってきた玲と入れ替わり、涼音が階段を上って行った。


「自分の娘が面接試験受けてるみたいで、あたしのほうが緊張するわー」


「母性本能ってやつか?」


 真奈美を良助が冷やかす。


「いや、なんか最近、涼音がかわいく思えて仕方がないのよね。ところでこの後どうすんの? みんな」


「ん? オレは何も考えてねーが? かすみん、どうするよ?」


「あなたたちで決めてもらっていいわ(というか、そんなこと考える余裕なんかないわよ……)」



 やはり10分で涼音が戻ってくる。


 次は良助の番。


「おじいちゃんときちんとお話できた?」


「……うん」


 真奈美と話す涼音は霞の眼に少し大人びて映った。


(やっぱり最後のわたしとの話が目的よね……)



 緊張で長く感じられる10分間。ようやく良助が戻ってきた。


「かすみん、お待たせ」


「うん」


 重い腰をあげて二階に上がると、霞は一度深呼吸してから博士の部屋のドアをノックした。


『どうぞ』


「失礼します」

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