第14話 アクションヒーローの舞台裏

〈40〉華麗にスルー

「じゃあみんな、お願いね!」


 タクシーで博士の自宅に移動した六人は、真奈美の言葉と共に家の中を探し始めた。博士の備品か何かが少しでも残っていれば、失踪の理由をつきとめる手掛かりになるかもしれない。


 だが、これといったものはなかなか見つからない。


「そういえばコンピューターやらプリンターやらのメモリは確認したのか?」


 二階に上がってきた玲が真奈美に声をかけた。


「ううん、まだ。見てもらえる?」


 真奈美は部屋の片隅に置かれていた機材を指で示す。


「えーっと……相当古いなこれ」


「あら、そう?」


「いつの時代のだ? って、五年以上換えてないのか!」


 貼られたラベルを確認した玲が眉をひそめる。


「そういうことになるかな。あたしもおじいちゃんもそのあたりよくわかんなくて……」


「うーん、これは俺にもわからんな。おーい、雅也! 涼音!」


「どうした?」

「……何?」


「お前ら、これわかるか?」


 雅也と涼音にそれぞれコンピューターとプリンターを預ける。


「これなつかしいな! ちょっと中身見ていい? まなみん、ドライバーある?」


「まてまて! メモリに何か残ってるかどうか確認するだけなんだが!」


 興味津々の雅也を玲が止める。


「……たぶん……両方とも……残ってないよ……データ保存……しないタイプ」


 後ろで型番をチェックした涼音が言った。


「そうか」

「涼音、良く知ってるわね~」


 玲の横でしゃがむ真奈美が涼音が手にしているプリンターをのぞく。


「……うちにも……同じの……あるから」


「お父さんとかが使ってるの?」


「……私……集めてるの」


「そう」


 涼音はにこにこしながら答えたが、真奈美も、他の誰も、決してそれ以上聞こうとはしなかった。



 結局これといった収穫のないまま応接間に集まる。テーブルには便箋びんせんが置かれていた。


「結局手掛かりになるのって、この手紙だけか……」


 真奈美が言ったそのとき、良助の端末が鳴った。


「あ、大学からだ、メディアカードと演算サーバー返せ、だって」


「じゃあこのサーバー持って行かないと」


 雅也が大きな箱を指さす。


「続きは研究室で、だな」


 玲が目を開いた。



 ◆◇◆



 ――ピッ

 霞がカードキーで研究室のドアを開ける。


「よし、れるぞ」


 玲が声をかけ、サーバーを持ち上げたとき、


「待って! いったん下ろして!」

 振り向いた霞が叫んだ。


「「「「えっ?」」」」


(誰かが侵入している……)


 びっくりするみんなを手で制しつつ、霞が部屋の中を見回す。


「今朝、最後にこの部屋から出たのって誰だった?」


「あ、僕だ」


 雅也が自分を指さした。


「その時と何か変わってないかしら?」


「えーと、何ですかね?」


 研究室をながめながら雅也が思い出そうとしたとき、


「……あっ!」


 突然涼音が部屋の中に走り、自分の机のまわりを探し始めた。


「……メディアカード……なくなってる‼」


「えっ!?」


 あわてて飛んできた雅也も涼音の机を調べる。


「……誰かが……この部屋に……入った……てこと?」


「だけどこれがないと、この部屋開かないよ?」


 そう言いながら雅也が自分のカードを指さした。


「大学関係者が入ったということか? みんな持ってるよな?」


 後ろから入ってきた玲の言葉に各自、自分のカードを取り出す。


 全員持っていた。


「でも大学関係者だって研究室には基本、無断では立ち入らないわよね?」


 カードをしまいながら霞が確認する。


「よっぽどのことがない限り事前に連絡がくるだろうし、借りたサーバーの件でデックにメッセージを送ったってことは、返却期限までは入って来ないと思うけどな~」


 頭をかきながら雅也が答えた。


「ああ、オレもすぐに返信したしな。そのせいじゃないと思うぜ」


「ということは、どういうことかしら?」


 霞が首をかしげる。


「ひょっとして博士のカードキーが盗まれたとか?」


「ん? それってどこにあったんだ?」


 雅也の言葉に再び玲が割って入った。


「僕もわからないよ、だけどほかにカード持っている人いないじゃないか。まなみん知らない?」


「いや、さすがにおじいちゃんの私物までは管理してないし」


「とりあえず他になくなったものがないか、調べましょうよ」


 霞にみんなうなずき、研究室を探し始めた。



 ◆◇◆



「結局なくなったのはメディアカードだけか?」


「誰かが持ってた、ってことはないよね?」


 一通り確認した良助と真奈美が口にしたとき、


「……それは……ない……最後……ここに……さしてたの」


 コンピューターを指さして涼音が言い切った。


「他に何か消えたものはないかしら? わたしたちのデータとか」


 霞に言われ、みんな自分のコンピューターを調べる。



「特に消去されたデータはないな」


 再びみんなが円卓に集まる中で玲が言うと、霞が突然口に指を立て、全員を黙らせた。


 そしてメモ用紙を取り出すと、


 ――盗聴器が仕掛けられているかもしれない。

   みんな一度静かに。

   玲が「メディアカードのバックアップってとってるよな?」と聞いてから、

  「うん、私のコンピューターデータの中にあるよ」と涼音が答えて。


 と書きこみ、みんなに回した。


「メディアカードのバックアップってとってるよな?」


「……うん……私の……コンピューターの……中に……あるよ」


 霞は口に指を立てたまま、続けて新しいメモ用紙に、


 ――玲が「ならとりあえず大丈夫だな。食堂で休憩しよう」と言ってから、

   雅也くんが「わかった」って答えて。

   その後すぐにみんなで食堂に行って。

   わたし一人ここに残るから。


 と書きこみ、みんなに回した。


「ならとりあえず大丈夫だな。食堂で休憩しよう」


「わかった」

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