第13話 リアルおままごと
〈37〉勢いで言っちゃった?
「演算は途中まで正常に進んでいた。サーバーの表示から、ブレーカーが落ちるまで博士がヘッドセットを装着していたのは間違いない。そしてあの部屋は完全な密室だった。人一人が物理的に消えられる要素はない。どんなトリックがあるのかがまったくわからない。しかもあの手紙――」
「手紙の話、今はやめておきましょう。まなみんに聞こえたら……」
玲の言葉を霞がさえぎった。
「じゃあ、どうする?」
(どうする、って言われても……)
霞が答えられないでいると、
「僕の……せいだ」
沈黙に耐えられなくなった雅也が口を開いた。
全員の視線が集中する。
「僕がこんなことをする、なんて言い出さなければ――」
「雅也くん」
たしなめるように霞が言った。
「僕が大学からソフトなんて借りてこなければ――」
「雅也くん!」
「そもそもこんな研究なんてしなければ――」
――パシッ!
霞の平手打ちが飛ぶ。
「いい加減にしなさい! 男の子でしょ?」
ぶたれた頬に手をやり、
「あなたいつも、結局は自分のことばかりじゃない!」
「霞……さん」
「『自分が悪い』なんて言って、結局現実から逃げようとしているだけじゃない!」
「だけど、僕がこんなこと考えなければ、博士はまだ生きて――」
「……違う」
突然声を出した涼音に全員の視線が移る。
「……雅也くん……じゃない」
涼音の目は大きく見開かれていた。
「どういうこと、なのかしら?」
「……博士……言ってた」
「…………」
「……いつか……会えるから……って」
「い……いつだ? いや、いつ言っていた?」
良助の額に汗がにじむ。
「……面接の……時」
「え? 研究室の?」
霞の言葉に涼音がうなずき、続ける。
「……私……思ってる」
全員が涼音の次の言葉を待った。
「……博士……生きてる……って」
みんなが涼音に何かを言おうとして、やめた。
「なんとなく」という言葉を聞きたくなかったのかもしれない。
(やはり、ほかの『来訪者』のせい? 涼音ちゃんは何を知っているの?)
考えをめぐらせながら、その場全員の様子をうかがう。
(この子たちは違うって博士は言っていたけど……どうする? 霞)
玲も涼音も黙ったまま。雅也は抜け殻のような状態だ。
「わたしたち、一度考えを整理しないといけないと思うの。最終的には警察に連絡する必要があると思うけど、まなみんのこと放っておけないし、誰かが残らなきゃ」
無意識のうちに口から言葉が飛び出していた。
「それができるのは霞さんしかいないと思います。女性だし、まなみんのケアを考えたら――」
「いえ、雅也くんにお願いしてもいいかしら?」
「えっ?」
「現実に向き合いなさい。責任を感じるくらいなら、前に出て取り返しなさい」
そう言って玲の方を向いた。
「ああ、俺もそれがいいと思う」
「……わかった」
玲の視線に雅也がうなずく。
(あれ? わたし今、勢いでとんでもないこと言わなかった?)
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