第2話 キラキラ作家のデビュー時年齢

 そして、拓はラジオCMの間に別のタブを開き、ラノベ作家・江波のwikiで経歴を確認する。

――東京の某有名大学在学中にコンテストで大賞を獲得しデビュー、

その作品は鳴かず飛ばずだったが次作の

『Take SEVEN!!』がアニメ化されバカ売れ

ヒロイン声優たちがユニットを組んで個性豊かに歌うOP曲はネタ要素も満載で

異例の大ヒット。世の中のオタク、という印象黎明期と丁度重なる時代で

その草分け的存在となる動画サイトではMADが山ほど作成される現象が巻き起こったのは拓も知っていた。


「華々しい経歴、とはまさにこの事かぁ……」

拓はもうすでに空となったビール缶を持つ手に力を込めた。


 いつからだろう、自分が"世の中にとって特別な人間"になり得ないと自覚したあたりから、それでもどうにか一旗揚げたいとは感じていて、著名人や芸能人が

"何歳で有名になったのか"を検索して自分の現年齢と計算する癖がついてしまった。


 賞レースの最終決戦までは残るものの優勝は決してできない、

うだつの上がらない芸人のネタ見せ前の"紹介VTR"。

そこで晒される、必死にバイトを掛け持ちして、親戚縁者に借金をしながら、それでもテレビの世界にしがみ付く……というような彼らの生活を見ていると無性に安心する。


 それまでは名前もつかない端役ばかりだったのが、もう40は過ぎた後に出演したドラマでの役が当たって、その後バンバン主演作を高視聴率へ導くような劇団出身の俳優を見ると、

「よしよし、まだまだ自分はイケル」と意味もない自信を拓は胸の内で膨らませていた。


しかし実際は、何もしていないにもかかわらず、だ。

 そして、今回はラノベ作家にまで興味が沸いた始末。


「オレだって、アニメや漫画だったら結構な数見ているんだけどなー」


等と呟いていた。

その流れで今現在ベストセラー・ラノベ作家と呼ばれている他の人物を調べて、それもwikiで出身校とデビュー時期を確認。


「大体みんな、すげえ大学出てんじゃん。」


拓は感心していた。対する自分は、知名度ナシの専門卒。

 資格も特になく、専門学校で学んだ知識を生かせる仕事についているかと言われればそうでもない。

「やーっぱ文字書く人間は、俳優や芸人とは違うかぁ。」

そこまで思いついて、パッと脳裏に浮かんだのは漫画家だった。


 絵も、内容もキャラデザも、文章も考える漫画家って、結構ハードル高そうなのに高校生でデビューしてる奴ら多いよな……


拓は今まで夢中になったジャンプやマガジンの人気漫画家先生の名前を思い浮かべる。

――漫画に関して言えば、高学歴だからって凄いのが描けるってワケでもなさそうだ。

絵の方に特化した能力の人間が集まる美大出身の漫画家も数名思い浮かぶが、自分が好きなのはむしろそっち系ではない。

ちょっと武骨で荒い方がむしろ、少年系に向いているような気がするし


一時期めちゃくちゃ世の中を沸かせたあの作品だって、絵が上手いから売れているわけでは……。


だとすれば、若さか。

若さが心躍らす物語を作り出す力に長けているというのだろうか。

キーボードを猛スピードで叩いて、日曜から土曜まで放映している漫画原作アニメの作者名を調べ、ひたすらググった。


「あー、みんなやっぱりデビューは若いなあ……」


自棄になって、冷蔵庫から二本目の缶ビールを取り出す。

あんなに心待ちにしていたラジオは今も続いていたが、いつもの様に座布団に正座して

全神経を研ぎ澄ませ修行に取り組むかの様に集中しながら視聴する気力は失せていた。


「一緒にご飯……」


という言葉が脳内に残響する。


「一緒にご飯……」


拓はそこまで考えて、バカじゃないかと自嘲した。


息子の敬もいるのに、ナニお近づきの妄想劇場開演しようとしているんだか、と。

自分はあくまでもファンで、毬には誰よりも幸せになってほしいと本心から思っている。


死んだ、沙里の様に。


毎日笑顔で過ごしてくれたら、と願う一心だ。


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