あなたはだあれ?

 父が連れてきた人。

 母が連れてきた人。

 めまぐるしく家の状況が変わる。

 父も母も人を連れてくるときは決まってどちらかが出張の時だった。

 母が連れてくる男の人は嫌いだった。来る度に私をいじめて帰る。母は面白そうにそれを見ている。

 握り拳で殴られたり、私の小さな体を芋虫が這うように触る。

 父が連れてくる女の人は好きだった。

 必ず私にお菓子やおもちゃなどのお土産をくれる。父もその人といるときは柔和な顔をする。母といる時はいつもだるまのような厳しい顔をしているのに。

 ある時は、母が父に紙を突きつけた。

 『離婚届』

 なんて読むのかわからなかったけど、幼稚園で貰うような母や父が読むためのとても大切な紙に見えた。

 数日経ったある日。母と父が質問してきた。

「パパとママはお別れすることになったんだ。●●はどっちといっしょにいたい?」

 いつかはこんな日がやってくるのだろうと、子供心にあった。今更問われても答えなど決まっていた。

 一目散に私は母に駆け寄った。母は嬉しそうに私を抱きしめた。父はとても寂しそうな顔をした。

 ひとしきり母の胸に顔を埋めたあと、母の顔を見た。私がどちらを選ぶかがとても重要だったようで勝ち誇ったような醜悪な母の顔。

 それに私は一言だけ告げた。

「あなたはだあれ?」

 

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