第16話 親子酒
「あなた、また息子が……」
「あいつまたか!」
父親は居酒屋に行くと、
空き巣にでも入られたような荒れ具合。
「あ、お父さんですね! 早く連れて行ってくださいよ!」
「すみません、すみません。
うちの息子がすみません」
父親は息子を連れ帰ると、目が覚めるのを待って説教をした。
「おい! お前、また酒を飲んで暴れたな!
自分の酒癖の悪さくらいわかっているだろう!」
「親父、酒を飲まなくちゃやってられない!」
息子の言い分もよくわか……ではなく、
息子がこれ以上トラブルを起こすわけにもいかないので、
父親はある提案をした。
「これからは禁酒だ。
ただし、お前だけ辛い思いはさせない。
わしも一緒に禁酒してやる」
「親父……」
そこで二人は一緒に禁酒をはじめた。
お互いにお互いを監視し合うようにして2週間。
親父は酒が飲みたくなってきてしまった。
「あーー酒が飲みたい。
というか、酒を飲む以外にやることがない」
仕事も定年し、家にいることが長い親父は
もうやることがなくなってしまう。
息子が家にいないことを確認し、妻に土下座した。
「頼む! 酒を酒を出してくれ!」
「あなた……」
「酒を飲ませてくれれば、収まるからっ!
こんな風にだらしない姿を息子に見せるわけにいかない!」
親父はなんやかんやと理由をつけて、
なんとか妻から酒を手に入れた。
「っぷはぁ! 上手い!
禁酒してただけに最高だ!」
親父は1杯のつもりが、つい飲みすぎてしまった。
息子が帰ってくるころには完全にできあがった。
「ただいま」
「うおおおおおい!」
親父は慌てて一升瓶を隠し、
体にスプレーを浴びるようにかけてにおいを消す。
キシリトールを10粒噛み砕いて証拠隠滅。
酔っている姿など、見せるものか。
「お、おお……おかえり」
「ただいま、親父」
「お前……その顔」
息子の顔はすでに赤ら顔になっていた。
「お前、飲んできたのか!?
約束は!? 禁酒はどうした!?」
「こっちだって仕事の付き合いがあるんだよ。
上司に酒を進められたら断れるわけないだろ」
父親は開き直ったような息子に腹を立てた。
怒鳴り声で妻を呼び出すと叫んだ。
「おい! さっきから顔がいくつも見える!
こんなバケモノはわしの息子であるわけがない!」
息子は言い返した。
「俺だって! こんなぐるぐる回る家なんか、我が家じゃねぇよ!!」
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