第15話 富久

「金がないなら飲ませる酒はない! 帰れ!」


居酒屋から男が1人蹴りだされた。


「そんなぁ、あと1杯! ツケで!」


「お前、ついの店でどれだけツケてると思ってんだ!」


男は借金まみれで首が回らなくなっていた。

結局、酒は飲めずじまいでとぼとぼ帰っていた。



『1等 3億円

 2等 1億円』


その帰り道、宝くじ売り場が目に入った。


「……これに賭けるか」


男はなけなしの金を使い切り、宝くじを買った。


家に帰ると、宝くじの紙を神棚にお供えした。

そっちの方がご利益がありそうなので。


「神様、仏さま!

 1等……いや、2等でもいいから私に幸運を……!

 当たれば借金を返済して、

 今度からちゃんと仕事すると誓いますからっ」


何度も手を合わせて、男は床についた。



その夜、けたたましいサイレンで目が覚めた。


「ふにゃあ……なんだ、こんな夜中に……」


寝ぼけながら外に出てみると、

消防車が何台も道路を横切っていた。


「なにかあったんです?」


「火事みたいだよ。あっちの方であったみたいだ」


大家さんが指さす方向は、ちょうど男が行きつけの居酒屋。


「そうだ! 商品を避難するのを助ければ

 恩を売ることができるかもしれない!」


男はそんな下心を丸出しに居酒屋へ向かった。

現場につくと、居酒屋の主人は大喜び。


「店からものを出すから手伝ってくれ!」


「はい!」


居酒屋から商品をバケツリレーで避難させた。


「ああ、ありがとう。ありがとう。

 お礼にここで好きなだけ酒を飲んでいいぞ」


「ありがとうございます! では、お言葉に甘えて……」


男は大好きな酒をあびるように酒を飲んだ。

そうして数分持たずに完全にできあがってしまった。


「ふにゃあ~い~い気分♪

 なんかもう、最高に幸せだなぁ」


「お客さん、あの煙……お前のアパートの方じゃないか?」


「へ?」


居酒屋を出るとものの見事に男の家の方向……。

いや、もう完全に自分の家だった。


「う……そ……」


慌てて家に引き返すと、ものの見事に全焼していた。

寝ぼけながら家を出るときに、火の始末をし忘れていた。


「とんだ火事の掛け持ちになったな……」



翌日、宝くじ売り場で抽選会が行われていた。


「1等は……100番! 100番のくじです!」


「……100番? 100番!?

 当たった! 当たったぁぁぁ!!」


男は宝くじの番号を思い出して、飛び上がった。


「ああ、お客さん、当たったんですか?

 それじゃ、当たりくじを拝見します」


「くじ……くじは燃えて……ないっ!」


「くじがなければ、換金できませんよ」


「そんなぁ……」


男はあきらめるしかなかった。


「ああ、もし宝くじがあれば借金も支払いできたのになあ……」


燃え尽きた家につい帰ってしまった。

すると、大家さんが声をかけた。


「ああ、なかなか帰ってこないから心配しましたよ。

 実は……」


話している大家さんの後ろに目が釘付けになった。

間違いなく自分の家に置いていた家財が置いてあった。


「あーー! 泥棒!

 あんた、俺の家財を盗むなんて許さない!

 火事もあんたの仕業だな!」


「ちがっ……ちがいますよ!

 火事だから、あんたの家財を避難させたんだよ!」


「えっ……それじゃ、神棚は?」


「もちろん」


大家さんは避難させていた神棚を男に返した。


「良かったなぁ。きっと居酒屋を助けたから

 神様が優しくしてくれたのかもしれないな」




「ええ、これで2つの"おはらい"ができます」


神棚に手を合わせた男は、居酒屋のツケを払いに走った。

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