普通のエッセー

だざいおさむし

第1話普通のエッセー

 高校を卒業して、まもなくの間(要するに春休み)で、起きた事について記そうと思う。その時に起きた事件は私にとっては特異であったが、皆にとってはどうだろうか? これから私の話すことは、私にだけは「文学」的だと思われる。それが他の誰かに興味を与えるかどうかが分からない。それほどまでに無意識的だし、それをいつも「あえて」為す人間なのだ、私という男は。


 春休みにⅩから電話があった。それだけだ。しかし、その電話の内容が実に変だった。

「もしもし、直樹さんいらっしゃいますか?」とⅩは言った。それはわりと丁寧だった。

「夜雨だけど」

「あっ、夜雨? 久しぶりー。Ⅹやでぇ。大学受かったぁ? 俺、受かったでぇ。三流なんやけどな」それは高校の同級生のⅩの声だ。

「俺は大学のテストは受けてない。むろん、行かないつもりだけど」私だ。

「俺、B大だよ。もったいないから行くことにしてん」それは二流大だった。

 しかし、それはよくあることだ。

 Ⅹは続けた。


「いや、実はな、今日、電話したのは夜雨に相談したいからやねん。実は、その相談というのはな、大学に入ってからのクラスでの『グループ』のことやねん。友達同士の『班』のことや。いやー、俺も夜雨みたいにクラスで一番目立ってる、格好の良い『班』に入りたくてさ。ほんで、どうやったら、入れるのか、お前に教えてもらいたくてさ。俺、高校では無理やった。高校ではお前に負けた。いや、お前と俺を比べたらあかんよな。でも、悔しいんねん、分かるだろ? でも、お前だけは幅を利かせてる「グループ」にいながら、仲良くしてくれたな。お前は認めてええでぇ。だけど、大学ではエンジョイしたくて堪らない。そこで、コツというか、作戦というか、何でもいいから教えてもらっていいか。頼むよお」


――――私はⅩが何を言いたいのか最初、分からなかった。グループと言われても、それが学生の悩みに値することなのか、値するとしたら、なぜ、学生を経験したことのある自分が解せなかったのか。Ⅹは恥ずかしい気持ちを押し殺して、私に尋ねたのだろうか。グループというのは友人関係の「派閥」のことかと次第に私は理解していった。彼は私の学生時代に所属していた「派閥」が、派手で格好の良いものだと語った。しかし、これだけは言っておく。私は権力のある「派閥」には絶対に属さない。そういう友達は求めたこともないし、逆に求められた記憶もない。けれども、Ⅹは私をそういう、気高い派閥にいたと言っているのだから、その可能性もないことはないだろう。そして、彼の「相談」を受けているうちに、何かアドバイスをしてあげなくてはという気持ちになった。そして、私は次のことをⅩに言った。


「Ⅹがそこまで考えているとは知らなかったよ。俺なんか、そういうことにまるで興味がないから、反対に新鮮だったな。なるほどな。俺も高二の時は少しグレていたかもな。コワそうな奴に声掛けられた時は「威嚇」作戦だな。(笑)それは効くと思うよ。でも、友達って誰がいいとか、誰はダメだとか、そういうんじゃなく、無意識が合えば、そこで関係が始まるもんでさ、そこから少しづつ友情を育めばいいんだよ。どこのグループでも構わないんだ。そこで、本来の自分というものを発信すればいい。お前は自分というものを見失っている気がする。だから、そういうものにすがりたいんだと思うよ。俺はもうワルなんてやめたよ。バカバカし過ぎて、やってられんからな。とにかく、お前から電話があったことに感謝するわ。そういう気持ちが大事だと思うから。友達なんて、誰だっていいよ。彼女を作りなよ。応援してるから」


 私は彼にそう告げると、彼は分かったと言って静かに電話を切った。私はちゃんと彼にアドバイスをできただろうか。いや、そんなことより、無性にビールが飲みたくなった。彼は真剣だったかも知れないし、真剣じゃなかったかも知れない。なぜなら、彼の聞きたかったことはそういう内容のものだったからだ。しかし、クラスの派閥の問題など、取るに足らないものだと考えていたが、どうやら違ったようだ。描写が酷く困難なのである。私の正義論なんかもそれに似ている気がする。私が今回書いた小説は「世界一バカな小説」だったかも知れない。世界一バカな小説=普通のエッセイといったところか。読む人によっては、バカにされる怖れがある。でも、作者はいつも真面目だ。小説家のように書きたいものを探し、小説家のように書き始める。そして、書き終わるとそれが何なのか分からなくなる。しかし、普通の小説を書くより、こっちのほうがやりやすいかなと個人的に思っている。

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