第27話 ハーレムルート全力回避!

「クピッピ~~!!」


 高さ約7~8メートル。飛べない鳥が今、狼の群れへとダイブする。

 馬鹿野郎!と叫びたかった。うまく着地出来るのか。出来たとしてそれからどうする気だ。そもそも戦えないだろう。色々な思いが浮かんでは言葉にならず消えていく。


「あ~、くそっ!」


 とにかく、今はこの状況をなんとかするしかない。

 オレも覚悟を決めて飛び降りた。





 先頭で戦っている赤毛の少女、彼女は普段からパーティーの最前衛として戦っているのだろう。先程から多くのフォレストウルフを引き受けている。しかし、一対一なら遅れをとることもないのだろうが、複数を相手にし、さらに疲労も重なっては最早自分の身を守るので精一杯に見えた。

 そしてついにその時は来る。仕留めそこねた一匹に武器を牙で押さえられたのだ。彼女は必死に武器を取り返そうとするが、敵も咥えたまま離さない。仲間のため懸命に少女の武器を封じ込める。

 その隙を逃さず、他のフォレストウルフが少女に襲いかかる。一瞬の油断。通常であれば瞬時に別の武器に取り替えるところだが、武器に固執したため襲いくるフォレストウルフへの反応が遅れてしまった。

 少女は死を覚悟した。願うのは仲間のこと。どうか生き残ってほしい。自分が食べられてる間に逃げてほしい。ずっと一緒にいよう、約束を守れなくてごめん。

 その時、


「ピッ、ピキュルルルル~!!」


 突如響いた甲高い音に驚き、武器から手が離れ体勢を崩してしまう。結果として狼の牙は空を切り、命拾いをした。

 しかし安堵するにはまだ早い。今のは一体何だ?これ以上状況が悪くなるのはやめてほしい。


「何この音!?」


 仲間に疑問を飛ばす。だが仲間も把握出来ていないのか、キョロキョロと視線を動かすばかり。

 その時、怪我のため一番後ろにいた仲間が何かに気づいた。


「あ、あそこ……」


 指をさす先、崖上に目をやればそこに人影が見えた。


(誰?)


 浮かぶ疑問は自然なことだが、しかし気を取られている余裕はなかった。同じように注意を引かれたフォレストウルフたちだったが、一瞬早く我に返り狩りを再開する。


「くっ!」


 まずい、反応が遅れた。せっかく拾った命を自分の判断ミスで失うのか。笑い話にもならない。

 だが、幸運の女神は彼女を見捨てはしなかった。

 フォレストウルフがその爪を降り下ろそうとしたその瞬間、天から落ちてきた黒い塊がその体を直撃したのだ。


「ギャウン!?」

「えっ?」


 今度は何!?

 最早少女は場の展開についていけない。目まぐるしく変わる状況に目眩がしそうだ。今さらだけど誰か助けてと、そう思った。




 アインが赤毛の少女に襲いかかろうとしたフォレストウルフに、落下の勢いそのままに突っ込んだ。よくもまあピンポイントで体当たり出来るもんだと感心する。

 遅れて飛び降りたオレは空中で強化を発動し、アインの直撃で体勢を大きく崩した個体を狙い、着地と同時にナイフで首をはねる。

 血しぶきが上がり、近くにいたオレと少女の体を赤く汚す。体にかかる熱い液体に不快感が募ったがかかずらっているヒマはなく、側にいたもう一匹を返す刃で斬り捨てる。

 奇襲とはいえ何とか二匹減らすことに成功した。しかしまだ10倍以上の数が残っている。


「あ、あの……」

「とりあえず説明は後。まずはここを切り抜けよう」

「え?ええ、そうね」


 赤毛の少女にそう言って、少女の仲間に目を向ける。彼女たちも突然現れたオレに驚きはしたが、オレの言葉から助っ人だと判断したようだ。特に反論もせず戦闘態勢に戻る。

 よかった。説明とか正直めんどくさい。

 上からではよくわからなかったが、一番後ろのローブを着た少女は肩を怪我しているようだ。ローブの一部が赤く染まっていた。その上魔力切れも起こしているのかずいぶんと青い顔をしている。

 怪我をしたうえに魔力までなければ、そりゃ戦闘には参加できんよな。


「アイン」

「クピ?」


 フォレストウルフたちに向けて威嚇するようにシャドーボクシングをするアインに声をかける。

 腰のポーチからポーションを取りだしアインに持たせた。


「それをあの子に……キミっ!こいつを預かっててくれ!」


 そのまま体を掴むと、怪我をした子へとアインを投げつけた。


「えっ?え?」


 突然飛んできたペンギンを混乱しながらもキャッチするローブの少女。

 とりあえずはこれでいい。アインがポーションを渡せば怪我の方も大丈夫なはず。


 あとは言ったとおりここを切り抜けるだけだが……ホントに大丈夫だろうか。フォレストウルフの相手は何度かしたことがあるが、ここまでの数を相手にしたことはない。基本ここまで増えたら逃げてたからな。


「まあ、オレ一人ってわけでもないし、きっと何とかなるだろ」


 そう小さく呟く。強がりのつもりはない。オレは基本的に思ったことしか口にしないし、口にしたからにはなるべく実現させる。

 だからきっと何とかなる。大丈夫だ、ジンやトワに比べれば狼の10匹や20匹屁でもない。そう自分に言い聞かせ、オレはフォレストウルフを迎え撃った。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


 結果から言えば何とかなった。

 勿論無傷とはいかず、あちこち怪我をしているが、それでも誰一人欠けることなくピンチを脱出することに成功した。

 全く、今日はとんでもない厄日だと思う。軽い気持ちで受けた採取クエストのはずが、逃走不可の討伐クエストに早変わり、って勘弁してほしいぜ。

 主人公がチート持ってる作品ならこんな展開も有りだと思うが、オレってば一般人に毛が生えた程度の素人だぜ?難易度が高すぎると思います。

 まあ、退屈じゃないだけマシなのかな。


「あの……」

「ん?」


 一人この世の不幸を嘆いていると、不意に声をかけられた。先程の赤毛の少女だ。少女と言ってもオレと同じくらい、いや、少し上っぽいが。


「あなたが来てくれて本当に助かったわ。私たちだけじゃ全滅してたかもしれない。本当にありがとう」


 そう言って頭を下げる。他のメンバーも同じように頭を下げ、こちらへと感謝の気持ちを示した。


「あ~……」


 正直、見捨てるつもりだった身としてはここまで感謝されるとこそばゆいを通り越してばつが悪い。オレとしては、彼女たちを助けたのではなくアインを助けたのだから。

 しかし、彼女たちがそんなことを知るはずもなく、その瞳は純粋に命の恩人に対する感謝の光を放っていた。


「街へ戻ったらぜひお礼をさせてくれない?そうね、報酬の半分は渡すし、食事もご馳走するわ」

「あ、いや、それは……」

「遠慮することないわよ。あなたは命の恩人なんだから。むしろこの程度のお礼しか出来なくて申し訳ないけど」


 まずい。この流れはまずい。何がどうまずいのかは自分でもよくわからないが、このまま流れに身を任せるのは危険な気がした。具体的に言うと、いわゆる男女比のおかしい作品と同じことになりそうと言うか。


「命の恩人に対していつまでもあなた呼ばわりは失礼よね。よかったら名前を聞かせてくれない?って、こちらから名乗るのが先だったわね。私は――」

「ストップ!」

「――えっ?」


 まるで機関銃のようにしゃべる彼女を、名乗るギリギリのところで止めることに成功した。大丈夫、大丈夫だ。まだ戻れる。


「アイン」

「クピ?」


 とりあえず彼女たちの自己紹介を止めたオレはアインを呼び、指でこっちにこいと合図を出す。

 ローブの子の腕の中から降りて、こちらへと戻ってくるアイン。そのまま定位置である頭の上まで戻ってきたところでオレはまた彼女たちと視線を合わせた。


「えっと……」


 呆気にとられる彼女たち。オレが何をしたいのかわからないのだろう。

 それも仕方のないことだ。オレが今からしようとすることは、多分かなりの特殊ケースだと思うから。

 呼吸を整え、全ての準備を終わらせると、右手を持ち上げ彼女たちに告げる。


「さよなら!」


 告げると同時にダッシュ。自らの最大魔力をもって強化をかける。オレは彼女たちに背中を向け、全力でこの場を離脱した。


「「「「……え?」」」」

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