第20話 勝つためのコツ?勝てる勝負しかしないことかな

 異世界モノの定番として、この世界にも冒険者ギルドというものが存在する。

 ギルドは簡単に言えば斡旋所だ。仕事をしたい人、頼みたい人を引き合わせ、内容の確認、報酬の調整、失敗した時の保険など様々なところでバックアップをしてくれる。


 冒険者として登録するのは簡単だ。登録料を支払うだけ。テストや面談の必要は基本的にない。

 登録すればギルドカードが発行され、身分証として使える他、冒険者としての実力を示す指針にもなる。

 冒険者の実力はランク制度を採用しており、上からSABCDEFの7段階で分けられている。上に行けば行くほど実力者ということだが、単純に能力があれば上に行けるほど楽な話でもない。

 人に害を為す凶暴なモンスターや、人間と敵対している種族のいるこの世界では、弱肉強食の概念が原則的に存在する。つまり、良い悪いは別にして強いものには『何をしても許される』というが与えられるのだ。

 例えば、冒険者といえどもSランクともなれば国に文句を言うことも出来る。これは不平不満を口にする、ということではなく、実際に政治に介入することすら出来ることを指す。

 しかし、このような権利を腕っぷしだけのゴロツキに与えるわけには当然いかず、冒険者は上に行けば行くほど人格や品性というものが求められるようになるのだ。特にBランクよりも上に行くとその傾向は顕著になる。


「じゃあゼノたちは今Bランクなんだ?」

「まあな。と言ってもなったばかりだからそんな大層なものでもないけどな」

「それに個人でBランクなのはあたしとゼノだけで、ハッターとシアンはまだCランクなのよ」


 そう答えるゼノとミラ。どうやらCランクからBランクへと上がるためには前述の事情から試験が必要なようで、ハッターとシアンはそれに落ちてしまったらしい。


「こいつは昔からテストってのが苦手でな。シアンは……よくわからん」

「……(じ~)」

「クピ?」


 冒険者の仕事は主に採取、討伐、護衛、雑用の4つに別れる。

 採取はポーションなどの薬の材料となる薬草などを集め納品。討伐はモンスターや害獣を倒し、死体や部位を証として持ち帰り報告。モンスターは倒すと体が崩れるが、体内で生成された魔石が残るらしい。初日のアイツも魔石出たのかな?トワは拾ってなかったみたいだけど。護衛は今回のゼノ達のように行商の護衛や、要人の旅の警護などになる。雑用はそれらに当てはまらない本当に雑多な仕事で、その内容は多岐に渡る。溝掃除、買い物代行、家事代行、庭の剪定、ペットの散歩、子供たちの面倒を見たり、戦い方を指南したり。まあ、要するに人の数だけ仕事はあるってことだな。


「一番気が楽なのは討伐や採取ね。余程特殊な状況にならなければ基本的には仲間としか行動しないから。違いとしては、討伐は敵の強さを見誤らなければそこまで危険でもないし、儲けもそこそこ。採取は討伐よりも安全だし、何よりも数を欲しがるから頑張れば儲けもそれなりよ」


 さすが冒険者。金に厳しい。まあ、彼らは道楽ではなく生きるためにやっているのだから当然か。


「雑用はなぁ、基本安いし、割に合わないしでやりたくないんだが、これが馬鹿にならないんだ」

「というと?」


 ハッターの言葉に食い付く。


「商人ほどじゃなくとも、俺達もそれなりに信用で仕事を貰うことがあるのさ。討伐依頼の指名とかな」


 指名依頼は依頼者が特定の冒険者に直接仕事を頼むやり方だ。

 冒険者の仕事は基本的に早い者勝ちだ。人気の高い依頼は早々になくなり、その日の仕事にありつけない者が出ることもある。

 雑用は常に手を欲しがってるのでなくなることはないが、ハッターが言ったように割りに合わないため敬遠する者も少なくない。

 だが、指名されればそのような苦労とはおさらば出来る。さらに言うと、若干ではあるが報酬も上がる。指名料というやつだ。

 もちろん、指名したとしても彼らが確実に依頼をこなせるとは限らない。そのためにギルドが存在する。ギルド側が難易度を考え、難しいと判断されなければ希望通りに受理され、判断されれば通常の依頼として扱われるという訳だ。


「やっぱり一番儲かるのは護衛任務だけどな。その分数は少ないし、依頼人も面倒くさいやつが多かったりするが、それらに目を瞑ってでも受けたいってやつがごまんといる」

「そんなに違うんだ?」

「そうね。もちろん依頼主や内容によって報酬は変わってくるけど、一回の護衛任務で、贅沢をしなければ一月は暮らせる分の額は手に入るわね」

「へぇ~」


 なるほど。

 オレが地球にいた頃に読んでた異世界モノのラノベで、主人公たちが次の目的地に行く際には必ずと言っていいほどついでに護衛任務を受けてたが、この世界でそれは難しいかもな。もしくは目的地が同じだからと、逆に報酬を買い叩かれたりするかもしれん。


「じゃあ、今回はかなり儲かったんだな?」


 もうウッハウハだろうと聞いてみれば、三人は三者三様、面白い顔をした。

 ゼノはヤバって顔をして。

 ミラはそんなゼノを睨み付け。

 ハッターはもう何とも言えない本当に微妙な顔をした。


「な、なに?どしたん?」

「……まあね。確かに今回の依頼はウマい仕事だったよ」

「じゃあ」

「この馬鹿があんな賭けに乗りさえしなきゃね!」

「……賭け?」


 聞けばゼノが今回の依頼人である商人―名をグスタという―とカードに興じていたら賭けを持ちかけられ、負けてしまったらしい。

 賭けなんて自業自得だろうと思うが、本人曰くそこに至るまでが巧妙で、そしてあの結果はイカサマに違いないとのこと。

 オレとしてはどちらにせよアホだなぁとしか思わないが。


「それで、何を賭けたんだ?」

「……依頼料」

「は?」

「だから依頼料を賭けて半額になっちまったんだよ!」


 ……マジでアホだ。


「イチ、あんたが何を思ってるかよくわかるよ。あたしらも何度も思ってきたことだからね」

「素直に小銭賭けるだけでやめときゃいいのに」


 たしかに儲けが半分になれば言いたくもなるだろう。額が違いすぎる。


「けど、こんなのは遊びの延長みたいなもんだし、話し合ってナシにしてもらったり、最悪突っぱねることは出来ないのか?」

「無理だ」

「どうして?」


 オレの素人意見にハッターが否定する。


「商人にとって金約束ってのは命よりも大事なものだ。誇りだと言ってもいい。その誇りがあるからこそ奴らは商人なんだ」

「……(つんつん)」

「クピ~♪」

「そしてさっきも言ったが、俺達冒険者にとっても信用は大事だ。特に後になって報酬でごねるような奴に仕事を任せたいとは誰も思わないだろう」

「それは、確かに」

「つまるところ、コイツが馬鹿だったってことだよ!」


 そう言ってミラがゼノの頭に拳骨を落とす。


「ってぇ~な!だから悪かったって謝ってるだろ!」

「黙りなこのあほもぐらが!」

「落ちつけミラ。今さらどうしようもないし、それに止められなかった俺達にも多少の責任はある」

「……(こちょこちょ)」

「クピッ、クピルルルル~!」

「うっ、ま、まあ……」

「ゼノも反省してるし、今回はいい勉強をさせてもらったと思おう」


 最終的にいい仲間たちだなって感じで終わったようだ。

 なんか合間合間に変なのが入ったせいで感動も薄れたけど。アインの奴、いつの間にかシアンってのとじゃれついてやがった。

 あいつトワにはなつかないのに変なのになつくんだな。


「けど、あれは絶対ぇにイカサマだろ」

「あんたまだ言ってんの?やめなよみっともない」

「だっておかしいじゃねぇか。それまで負けてた奴が、何であの勝負の時だけ良い手がくるんだよ。ありえねぇ!」

「……確かにどこか不自然な気はするが、それでも偶然と言われればそれまでだ。今さら確かめる手段もないしな」

「……(く~)」

「キュピル~……」


 この二人(一人+一羽)どっか行ってくんねぇかな。マイペース過ぎんだろ。




 さて、とりあえず話を聞けたオレは三人にお礼を言いその場を離れることにした。シアンの腹の上のアインも回収していく。


 それにしてもイカサマ、ね。

 オレはイカサマを悪いとは思わないが、それは勝負の場に限ったことだ。もちろんやられた方はたまったものではないが、それなら見破るかイカサマで返すか、最初から勝負しなければいいのだ。

 だが話を聞く限り、今回のゼノ達は勝負ではなくカモにされた感が強い。それはあまり好ましくない。


 とりあえずはその商人を見てみよう。ゼノ達の勘違いの可能性もあるが、話の通りイカサマで金を稼ぐクズだとしたら、


「当然、やり返されるリスクもあるって教えてやらないとな♪」

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