第21話 この村良い奴ばかりで試せなかったんだよね
「あ、イチ」
「ああ。何かいいものあったか?ん、どうした?」
戻ってくると何故かまだ誰も買い物をしておらず、それどころか商人と何か言い合っている村民の姿も見える。漏れ聞こえる声には、相場より高くないかとか、全体的に不作・不漁・品薄のためとかそんな言葉が聞こえた。
「どうなってんの?」
「それがね、今回の行商はいつも来る人の所よりも高いのよ。だいたい2割くらい」
オレの疑問にマリーさんが答えてくれる。
2割か。一つ二つならともかく全部がそうなら馬鹿に出来ない額だな。
「けど、不作や不漁だって言ってますし、仕方ないことなんじゃ?」
「それが本当ならね」
「え?」
「商品自体はどれも悪くないわ。良くもないけど。本当に不作ならもっと品質にもばらつきがあるはずよ」
マリーさんの言葉はこうだ。
通常であれば店には一定以上の品質の物が並ぶが、不作であれば数をそろえるために多少品質の下がった物が並ぶこともあるという。
だが今回は最低限の品質は保っているし、数もそろっている。これで不作・不漁とは思えないとのこと。
「ってことは?」
「間違いなくぼったくりね」
マリーさん言い切りましたね。
まあ、マリーさんは2年前まで街にいたんだ。この辺りの感覚はマリーさんが一番信用できる。
そうなるとやはりゼノ達の言葉は正しかったのかもな。よかった。これでオレの心も痛まなくてすむ。
「ジン、トワ、ちょっと」
「ん?」
「なに?」
オレの秘密を全て知っている二人を呼ぶ。これからやることについて、二人には話しておかなくてはならない。
「実はな……」
「全くもって言いがかりですな。営業妨害ならやめていただきたい」
「そこまで言っちゃいないだろう。ただいくつかが少しばかり高くてもおかしくないが、アンタんとこは全部が全部高いじゃないか。それは流石に変だろう?」
「ですから言っているじゃないですか。今回は十分な数をご用意することが出来なかったと。代わりに普段はこの村に持ってこない商品を持ってきたんです」
「そもそも、いつも来てた商人はどうしたんだよ?」
「彼は体を壊しましてね。それで行商はもう難しいと、私にこの村へ代わりに行ってくれないかと頼まれたのです」
村人たちの追及を商人グスタはのらりくらりとかわしていく。さすが商人と言うべきか、こんなのどかな村の善良な村民じゃ口で勝てる人はいないだろう。
「あはははははははははは」
そんな中、突如響く馬鹿笑い。若干棒読みくさいのはご愛嬌だ。
つか、コイツが喋るたびに赤い文字が見えるから目がチカチカして痛いんだよ。
「……どうしました?何かおかしなことでも?」
突然笑いだしたオレに商人グスタも不審そうにしている。まあ、突然頭にペンギン乗せた男が現れたらそんな顔もするよな。
そんな奴の目の前に、箱一杯に詰めた商品を差し出す。
「これだけくれ」
「お、お~!ありがとうございますお客様。いやーお目が高い」
オレが客だと気づいたか、不審そうな表情などなかったかのごとくすぐさま営業スマイルを浮かべる商人グスタ。
オレの行動を心配そうに見つめる村人たちは、みすみすぼったくりに遭おうとするオレを見て止めようとする者もいた。が、それはジン達に止めてもらう。
勿論オレも態々ぼったくられるつもりはない。
「なあ、これもうちょっと安くならない?」
「はっはっは。ストレートですね。普段なら値段交渉には応じないのですが、せっかくのお客様第一号です。多少は勉強させていただきましょう!それで、如何程に?」
「じゃあ半額で」
「はは、さすがにそれでは商売になりませんよ。一割引きでいかがですか?」
「そりゃそうだ。半額で」
「……これはまた、一割五分ではどうでしょう?」
「はっはっは。半額で」
「……ふざけてるんですか?」
ここでようやく、商人グスタはオレが値段交渉を仕掛けてる訳ではないと気づく。
「いや~、別にふざけてるつもりはないんだけどさ、皆が言ってる通りちょっと高いと思うんだよね。これホントに適正価格なの?」
「もちろんですよ。言いがかりならやめていただきたい」
「ふ~ん、そう。だけどそれだとこっちも手が出ないんだよね。アンタもそれだと商売あがったりじゃないの?」
「まあ、そうですね。残念ですがその場合は商品を持って帰ります。そして商売にならないのであれば我々も二度とこの村には来ないでしょう」
なるほどね。無理やりにも買わせようとする脅し文句か、元々この村への行商をやめようと考えていてこのような行動に出たのかはわからないが、どちらにせよこの商人の腹はそんなに痛まないということか。
しかし、行商はこの村の数少ない娯楽の一つみたいだからな。やめられると困る。
「わかった。じゃあ賭けをしないか?」
「賭け?」
「ああ。さっきアンタの護衛をしてた冒険者と話をしてたんだけど、アンタ賭けが好きなんだって?」
「ええ、まあ。自分でも悪癖だとはわかっているのですがね。ついつい熱くなってしまって」
「だから賭けで決めようぜ。オレが勝ったらこの会計を半額にする。アンタが勝ったらそうだな、倍払うよ」
「ほ~」
オレの言葉に嬉しそうに口を歪めるのがわかった。
「しかし、賭けと言ってもどのような勝負をするつもりですか?こちらに不利になるような勝負では受けかねますが」
「そうだな~。なあ、この並んでる商品ってさ、アンタの店に並んでる時とは値段が違うんだよな?」
「ええ、そうですね。ここまで運ぶのも
「いやいや、文句なんかない。当然のことだ。だからさ、これを勝負の方法にしたいんだよ」
「というと?」
「今からオレが買おうとしてるこの商品。この商品のアンタの店で買う場合の値段を当てるってのはどうだ?」
「ほう?」
「と言っても、オレに目利きなんて出来ないからな。だからアンタに3つ、いや、5つ候補を出してもらってそれを当てる形にしたい」
「ふむ」
商人グスタはオレの提案に興味を示す。あまりにもオレに有利な条件なら断るつもりだったのだろうが、それなりに公平性があると感じたのだろう。
今やつの頭の中では勝てるかどうかの計算が行われている。だが、そう考えてる時点で乗り気な証拠だ。
やがて勝ちへの道が見えたのか、了承の返事をしてきた。
「いいでしょう。ただし条件を少し変えさせてください。こちらが出す正解の候補は5つではなく10。そしてそちらが当てられなかった時は三倍払っていただきたい」
「クピッ!?」
「三倍って。それはふっかけすぎじゃない?」
「別にいいんですよ。飲めないなら受けないだけですから」
三倍か。金にがめついのは商人の美徳かもしれないが、それよりももう少し人を見る目を養っておくべきだったな。
「わかった。負けたら三倍払うよ。その代わり、嘘だけはつくなよ?選択肢に正解がないなんて嫌だからな」
「もちろんですよ」
さ、検証開始しましょうかね。
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