第15話 杉宮一途の異常性?
「ふ~ん、モンスターに襲われてたところをなぁ」
トワの家。
あれから村の人達には挨拶もそこそこに、怪我の治療のためと言ってここまで連れて来られた。
今トワがお兄さんに簡単に
事前にトワと相談して、星渡りであることとスキルについて、あとトワたちの正体を知ってることについては隠すことにした。隠せばまたあらぬ誤解が生まれるとも思ったのだが、その辺りはトワがうまく説明すると言うし、この世界に慣れるまではその方がいいと言うからだ。
だが、
「お前、星渡りだろ?」
一発で見抜かれました。
「え~と、一応聞くけど何でそう思ったんだ?」
少しも誤魔化そうとしないオレに、トワが顔に手を当てて天を仰いでいる。
まあ、オレとしてはトワにもバレてるし、もうそこまで隠さなくてもいいかなって思ってたからな。
「容姿やら服装やら世間知らず過ぎるやら、色々あるが一番は回復魔法が効かなかったことだな」
「え?だけどスキルとかの代償のせいなら回復魔法も効きにくいってトワが」
「まあ、それも間違っちゃいない。けど一番最初のモンスターにやられた傷、あれに関しちゃ理屈が通らない」
「あっ」
そうだ。あの時も回復魔法が効かないからポーションで回復したんだった。けどあの時はまだスキルは使ってない。
「ということは星渡りには回復魔法が効かないってことなのか?」
「確かに効かなかったのはお前が星渡りだからだが、星渡りに魔法が効かない訳じゃない。回復魔法が作用する流れに必要なものが足りてなかっただけだ」
必要なもの?そういえば最初にトワがオレの体質について何か言ってたな。確か、
「魔素?」
「知ってたのか。その通りだ。回復魔法は体内にある魔素を活性化させて肉体を復元させる魔法だ。だから体内に魔素がなければ回復魔法は反応しない」
「そっか、だから……」
トワはそこで理解に至ったらしい。オレにもなんとなく解ってきた。
魔素はこの世界の空気中に存在する元素の一つだ。この世界の人々はそれを吸い、体内で魔力に変換する。
「異世界から来たばかりのオレには、まだ体内に魔素がなかったのか」
「そうだ。この世界で生まれ育った人間で体内に魔素がない人間はいない。
スキルを使った後に反応したのは、その頃には多少なりとも体内に魔素が入ったからか。けどやはりスキルの代償だから効きにくかったと。
「さて、俺も星渡りと会うのは初めてだな。さっきはすまん。トワの兄でジンって言うんだ。よろしくな」
「一途だ。よろしく」
「イチズ?いい名前だけど変わってるな」
「なに?異世界だとみんなこういう反応なの?」
上げて落とすのがデフォなのか?
「ははっ、冗談だ♪トワならこんな返しをしてそうだと思ったんだが、案の定だったか」
「ちょっ、兄さん!」
すごいなこの兄貴。獣人だけあって、見た目が獣を彷彿とさせるワイルド系なのに、ちょっと話しただけでオレを異世界人だと見抜くし、初対面で殺しかけたとは思えないほど気さくだ。妹が絡まなければきっといい奴なんだな。
「今日は泊まってけよ。代償モノは回復が効きにくいつったって、時間が経てばその限りじゃねぇ。明日には効くようになってるはずだ」
「いいのか?」
「おう。俺も異世界の話とか興味あるんだ。よければ聞かせてくれよ♪」
やっぱいい奴だ。
けど、オレはまだジンに言ってないことがある。ここまで世話になって隠し事をするのはどうにも据わりが悪い。
オレは正直に言うことにした。
「なあジン、そう言ってくれるのはありがたいんだけど、オレまだ言ってないことがあるんだ」
「ん?どうした?」
「イチ?」
「スキルのことなんだけど」
「ああ、その怪我の原因ってやつか。星渡りはユニークスキルを持ってる奴が多いって聞いてたけど、そんな代償まであるなんてな。あ、別に言わなくていいぞ。わざわざ手の内を晒す必要なんかねえよ」
「違う。聞いてほしいのはもう一つの方で」
「イチやめて!」
トワが止める。そりゃそうだ。赤信号の横断歩道に飛び込もうとしてる奴がいれば普通は止めるよな。
トワは秘密を知ったオレを助けてくれたけど、ジンも同じとは限らない。それでもオレは世話になる人間にはフェアでいたい。
ただの自己満足だ。
「結果だけ言うけど、オレはあんた達兄妹の正体を知ってる」
「ッ―――」
「イチ!」
トワがオレを非難するような声をあげる。ジンはほんの一瞬動揺が見えたが、注意して見なきゃわからないほどの、完璧なポーカーフェイスだった。
だが、なんのことかととぼけたりはしない。トワの反応で本当のことだとわかってるのだ。
「本当か?」
だからこそ、確認はオレではなく妹へ。
「……」
だが、トワは肯定も否定もしなかった。ただ兄の目を見ていた。
埒があかないと思ったのか、ジンがもう一度オレを見たので、はっきりと頷いてやった。
「はぁ~!……何でわざわざそんな事言うんだテメーは。死にたがりか?」
「まさか」
「それでどうする気だ?俺達を脅すのか?」
「そんなつまんないことしねぇよ」
「つまらない?」
そうだ。それはつまらない。これでトワ達が悪人なら面白かったかもしれないが、ジンもトワもいい奴だ。そんな奴を脅して何が面白いというのか。
「オレは別に二人の正体を知ってるからってどうするつもりもない。トワには言ったけど、会えて嬉しいくらいだ」
「はぁ?」
「ただ危険だってことは覚えておいてほしい。実はオレはスキルのせいで嘘がつけない。もしも二人の正体を疑ってる人間に尋ねられたら本当の事を言ってしまうかもしれないんだ」
「嘘がつけない?」
「ああ」
オレは《ダウト》の能力について話した。
「嘘をついた人間にペナルティを与える代わりに、自分にデメリットね」
「ああ」
「悪いが信じられねぇ」
「なぜ?」
「確かにトワの話じゃ、嘘を見破ることは出来るんだろう。隠蔽も見破ったほどだからな。けど、だからと言ってお前が嘘をつけないとは限らない。そのデメリットの設定とやらをしなくても嘘を見抜くことは出来るんだろ?」
「あっ」
やっぱ頭いいなこいつ。トワももう少し疑う心を持てばすぐに気づけたんだろうけど、それは美徳だからそのままでいてください。
「じゃあ、どうすれば信じてもらえる?」
「別に信じる必要はない。今ここで殺せばな」
「兄さん!?イチはわたし達に信じてもらうために、わざわざ言わなくていいことまで言ったんだよ!」
「そうだな。だけどそれがコイツの手ならどうする?信頼を勝ち取って、一番大事なところで売り飛ばすつもりかもしれない」
「そんなつもりは毛頭ないんだけどな」
「言葉だけならいくらでも言える」
「だから嘘はつけないんだって」
またこのやり取りか。なんだか堂々巡りになってきた。
けど、オレはこの二人と仲良くなりたいのだ。獣人かどうかは関係ない。まだ知り合って少ししか経ってないけど、それでもこの二人がいい奴だって知ってるから。
「なら実際にそのデメリットとやらを見せてみろ。嘘をつくだけだろう。簡単なことだ」
「……すまん。それは難しい」
「はっ!そら見ろ」
「イチ、どうして?確かに何かしらのデメリットがあるのかもしれないけど、それがわかればわたし達も信じられるんだよ」
「死ぬんだ」
「え?」
「は?」
「だから、嘘をついたらオレは死んじゃうんだよ」
二人にデメリットについて伝える。あまりにもオレのトーンが内容と似つかわしくないので、二人ともうまく飲み込めてないようだが。けどトーンを変えても嘘っぽくなるだけだしな~。
ちなみに嘘ではない。嘘をつくと死ぬからな。間違いなく、オレはデメリットに自分の死を設定した。
「な、なぜそんなデメリットを?」
「元々嘘が嫌いだってのはあるけど、相手の嘘だけわかって、こっちが嘘つき放題なのは不公平だろ?」
「それだけか?」
「ああ」
十分だろ。十分だよな?嘘つかなきゃいいだけの話なんだし。
「……トワ、どう思う?」
「……わたし、多分ホントだと思う。まだ全然知らないけど、イチって時々自分の命がひどく軽く感じる時があるの。あの森ペンギンを庇った時もそんな感じだった」
「やっぱり死にたがりなんじゃねぇか」
なんだか二人でヒソヒソと話すようになってしまった。
え?オレってそんなに変?そういえば樹雷たちも時々こんな感じだった気がする。あの二人は変人(褒め言葉)だったから気にしてなかったが、もしかしたらあいつらもオレのことを同じように変人(罵倒)だと思っていたのかもしれない。
「イチ、イチ!」
「ん?ああ」
ちょっと意識を外してたらジンに呼ばれてた。どうでもいいけどお前もイチ呼びなんだな。こっちの人達には一途って呼びにくいのかな?
「お前はさっき気をつけろって言ったよな。俺達の正体がお前からバレるかもしれないからって」
「ああ」
「そもそも、どう気をつければいいんだ?お前はどういうつもりで言ったんだ?」
ん~?何だ?何が聞きたいのかよくわからないな。この質問の結果でオレの生死が決まるのか?けど二人の表情からはそんな感じはしないしな。
どちらにせよ、オレには正直に答える以外の選択肢はないけどな。
「マズいと思ったら殺してくれていいよ。なるべくならやめてほしいけど。二人の判断に任せる」
「「――!?」」
うん、言葉にするとさすがに異常な気がするな。要は二人の正体を知ってることについて、それくらいの覚悟はあるということなんだが。
ちゃんと伝わってるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます