第13話 スキルの検証1
「実は――」
そして、オレはトワに全てを話した。
オレが異世界人であること。神様に出会い、ディアクルーシェに行くよう頼まれたこと。スキルを貰ったこと。貰ったスキルの内容。着いて早々モンスターに出会い殺されかけたこと。ペンギンとトワに救われたこと。
「それからはトワも知っての通りだ」
随分もったいぶった割には薄い内容だなと思った。うん、しょうがないよね。だって神様と出会ってからまだ三時間経ってないんだぜ!?状況が変わりすぎなんだよ!それにこんな薄っぺらい内容の中、二度三度死にかけてるんだから、そこは評価(?)してほしい。
「そっか。イチは『星渡り』だったんだね」
「ホシワタリ?」
「うん。昔イチみたいに異世界からやってきて魔王を倒した勇者がいたんだけど、その人は別の星からやって来たって言ってたの。だから異世界から来た人のことを星渡りって言うの」
なんと、実は異世界ファンタジーではなくてSFでしたか。
待てよ。となるとその勇者ってのは少なくとも自分たちが地球という星に暮らしていることを理解していたことになる。ということは結構最近の人なのかな?
「その魔王が倒されたのっていつ頃の話?」
「さあ?おとぎ話だから正確には。多分何万年も前だとは思うけど」
ダメだ。全然参考にならん。多分こっちとあっちで時間の流れが全然違う。
もう気にすんのやめよう。
「じゃあ、星渡りってこの世界だとどんな扱いなの?」
「う~ん、色々話を聞いたことあるけど、やっぱり多いのは魔族との戦いに勇者として参加することかな」
勇者か、勇者なら冷遇されないだけまだマシかな。
「星渡りだからって酷い目にあうなんて話は?」
「ない、とは言わないかな。星渡りは人同士の戦争に介入したこともあるみたいだから、恨んでる人がいないとは限らないし」
やっぱりそうだよな。結局のところ、こればかりはその時になってみないとわからないのだ。例えば国に歓迎されたとしても、個人的に恨んでる人だっているかもしれないし。
「ちなみにトワは?」
「え?」
「いや、星渡りに何か複雑な感情を持ってたりするかなって」
「ううん。私はそんなこと……そんなこと思う資格もないし」
ん?後半がちょっと聞き取れなかった。まあ聞き取れないってことは聞かせる気がないってことだろうし、気にすることもないか。
フィクションだとこれがフラグになってて、それに気づかないオレは鈍感系難聴主人公とか言われたりするんだろう。
残念だったな!オレは主人公じゃないんだよ。
……話がずれた。
「まあオレのことはいいや。今度はトワのことを聞かせてくれよ」
「わたしの、こと?」
「そりゃ、何で殺されかけたのかとか知りたいじゃん?」
「あ、ごめんなさい」
事情がわからなかったため仕方ないが、トワが自分の仕出かした事の大きさにシュンとなる。尻尾も同じようにシュンとしてて、とてもカワイイ。個人的には犬派だ。
「わたしの事を話す前に一つだけ教えてほしいんだけど、星渡りにとって、ううん、イチにとって獣人って何?」
「最高だね!」
「は?」
「ゴメン、間違えた。う~ん、何って聞かれても、獣人は獣人じゃないの?」
「その、好きとか嫌いとか……」
「最高だね!」
「……」
「うん、ごめん。マジメにやります」
だってシリアスな空気って苦手なんだよ。質問も大雑把だし。
「オレたちの世界には獣人は存在しないけど、想像上の生き物としてある特定のジャンルで大人気だったよ」
「だ、大人気!?」
主に薄い本とかでね。
「だから嫌悪感とかは全くないし、むしろ会えて嬉しいよ」
「……嘘じゃないよね?」
「さっきスキルについて話したろ。オレは制約で嘘はつけないんだよ」
「む~、けど、そのスキルの話だって嘘かもしれないし」
おっと、そう来たか。ならば丁度いいので実験してみよう。
「わかった。じゃあ試しに何か嘘をついてみてくれよ。そうだな、最初は分かりやすい嘘をついて徐々に難しくしてくれ。もちろん本当の事を混ぜてな。オレがそれを当てるから」
オレがそう言うとトワは少し考えた後、一つ目の嘘を言った。
「わたし、実は男なの」
その瞬間、オレにはその言葉が赤く見えた。
(嘘を見抜くってこういうことかよ)
この感覚をどう説明したらいいのか。もちろん耳でも音を捉えているのだが、それよりもはっきりと目に見えるのだ。
オレも話に聞いたことがあるだけなので断言することは出来ないが、共感覚、シナスタジアとはこんな感じなのかもしれない。
とりあえず今言えることは、
(嘘でよかった~!もし本当に男だったらオレ人間不審になってたかも)
それだけだ。
「うそ」
「まあ、さすがにこれにはスキルなんて必要ないよね。じゃあ次行くね」
そして、実験を続ける。
「昨日の天気は晴れ」
「本当」
「わたしは動物が嫌い」
「うそ」
「兄がいるって言ったけど、もう一人妹がいる」
「うそ」
「妹が欲しい」
「本当」
「今日の朝ごはんはパンと卵とミルク」
「ミルクだけうそ」
「この辺りを治めてる国はサンラッド」
「うそ」
「村長さんの名前はソンチョさん」
「本当。ってマジかよ!?」
「すご~い」
村長の名前は確かに嘘みたいな名前だ。けど嘘じゃない。オレが何の躊躇もなく答えたので、さすがにトワも信じることにしたようだ。
「本当に嘘がわかるんだね」
「これでわかったろ?オレは獣人に対して嫌悪感なんかない。むしろ好きなんだってことが」
「……女の子だけじゃないの」ボソリッ
「……」
「あー、黙った!図星なんだ!いやらしい、この変態!女たらし!!」
「待て!違う!そうじゃない!ちょっと考えただけだ!そういう訳じゃない!」
「じゃあ、どういう訳よ?何を考えたの?」
オレが変なとこで答えに詰まったのでトワに変態認定されてしまった。腕で胸を隠すように体を抱いて身をよじっている。
が!トワさんや、そのポーズは大好物ですって人が結構な数いると思うのでやめた方がいい。これがラノベだったら間違いなく挿絵が入ってる。
「さっきも言ったけど、オレのいた世界じゃ獣人は想像上の生き物だ。そして特定のジャンルで大人気なんだけど、その特定のジャンルってのの客層が男性がメインなんだよ」
昔に比べて女性のオタクも増えたらしいけどな。
「つまり想像される獣人の姿も、客のニーズに合わせて女の子の姿になりやすいんだ」
「……だから?」
「男の獣人ってのが想像できなくて」
「それで答えに詰まったって?」
「(コクコク)」
「……嘘じゃないでしょうね?」
「嘘はつけないんだって」
そこまで言うとようやく少しは信じてくれたのか、警戒を緩めた。
というか、女たらしって酷くない?地球では女の子と会話することなんかほとんどなかったっての!せいぜい隣の席の佐々木さんくらいのものだ。文月?文月はほら、何か色々と超越しちゃってるから。
「まあ、ほら。男だろうと女だろうと、結局はその人の人となりを見て判断するんだから、人種で好き嫌いを決めたりしないって。同じ人間でも嫌いなやつは嫌いだし。獣人でもトワみたいにいい人もいるし」
「皆が皆、イチみたいな考え方だったらよかったんだけどね」
「ん?」
「この国では獣人は迫害の対象なの」
そして、トワはポツリポツリと語りだした。なぜ正体がバレただけで殺そうとしたのか、なぜそこまでしないといけないのかを。
この辺りを治めている国『クインノッド』では少し前に獣人と戦争があったらしく、随分と酷い目にあったらしい。他国の協力もあって今は停戦しているが、その頃の感情が尾を引いて獣人に対する悪感情になっている。
特に厄介なのは、
「獣人を発見したり、殺すと国から報奨金が出るの」
「はあ!?」
「逆に獣人を助けたり、匿ったりすると、この国の人間であろうと殺されてしまう。だからこの国の人達はなるべく獣人に関わりたくないし、関わってしまったら国に報告するしかない。そうしないと自分が殺されてしまうから」
……ふざけやがって。魔女狩りかよ。しかも人を殺して金が貰えるって。
確かにそんな事情があれば、あの態度も考えられる。殺らなきゃ殺られるんだ。
「けど、だったらこの国から出ればいいじゃねぇか。獣人にとって住みやすい国もあるんだろ?」
「うん、そうなんだけど……」
そう言って口を
「じゃあ普段はどうしてるんだ?そんなに目立つ色してると、隠すのも大変だろ?」
「うん、普段はちゃんと……って目立つ色?え?待って、イチにはわたしの耳と尻尾が何色に見えてるの?」
「赤色だけど?だから最初はアクセサリーだと思ったんだよ」
「あ~、だからあんなこと言ったのね。てっきり遠回しに脅しをかけてきたのかと思ったわ」
「ちょっ、ひどくない?命の恩人を脅すとか、どんな鬼畜だよ!」
ちょっとショックだ。
「ごめんごめん。わかってる。もう疑ってないよ。あと、何でイチに見えたのかわかったわ」
そうトワに告げられる。だが、さすがに今の会話でオレも気づくことが出来た。
おそらく、普段は何かしらの方法でちゃんと隠しているのだ。だから見えてることに驚いた。そして、あの聞き方からして例え見えたとしても、その毛色は赤くはないのだろう。オレにだけ赤く見えてるのだ。
つまり、
「オレのスキルのせい、だよな。きっと」
「間違いなくそうでしょうね。普段は隠蔽魔法で隠してるんだけど、『隠す』っていうのも確かに嘘をついてることになるかも」
つまり、オレには会話の嘘だけではなく、今言った隠蔽魔法や、例えば変身できる魔法なんかがあったとしても見破れるってことか?
これが故意か偶然かはわからないが、どうやら神様は、オレの希望よりも五割増しくらい高性能なスキルを渡してくれたみたいだ。
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