第4話 説明回ってどうしてる?

 とりあえずチートは置いといて、話の続きを聞くことにした。聞きたいことはまだまだあるし、その内容によって必要なモノが変わるかもしれないからだ。

 そして聞いた結果、以下のことがわかった。


 異世界ディアクルーシェ。そこは地球のおよそ5倍の広さを持ち、人間、亜人、獣人、様々な種族の生き物が暮らしているらしい。

 よくある差別はどうかというと、国によって千差万別、人間至上主義の国もあれば獣人が優遇される国もあり、差別なく皆仲良く暮らしている国もあるそうだ。


 気候環境に関しては、大気中に魔素が含まれている影響からか、地球の常識では計れない。極端なことを言えば、砂漠の隣に雪原地帯があることも考えられる。

 ちなみに魔素というのは魔力の源となるものである。生き物がこれを取り込むと体内で魔力になる。


 文化水準はよくある中世ヨーロッパレベルかと思いきや、これも国によって変わってくるらしい。以前から異世界に召喚される人間がいたおかげで知識チートが炸裂することもあったようで、科学技術と魔導技術の合わさったとんでも技術を生んだ国もあるようだ。

 ただ、何か問題があるのか、その技術も世界中に広がっている訳ではなく、基本的には中世レベルの国が大多数らしい。


 剣と魔法のファンタジー世界であれば当然モンスターもいるだろう。そう思ったのだが、そこは少々普通のファンタジーとは違うようだ。

 ゴブリンやオークといえば定番のモンスターだが、ディアクルーシェではそれらはモンスターとは呼ばず種族として見るらしい。

 モンスターとは魔素を魔力に変換できず、魔素が体から溢れ異形化してしまったモノのことを指すそうだ。

 もちろん、だからと言ってゴブリンやオークが安全というわけではなく、つまりはライオンや熊といった猛獣と同じだ。下手に手を出せば危険なことに変わりはない。


 そして、そんな危険な世界には冒険者の存在はかかせない。

 地球の5倍の広さだというディアクルーシェ。当然、まだ人類が足を踏み入れたこともない魔境秘境が存在することだろう。冒険者は神秘や財宝を求め、過酷な旅に出る屈強な者たちだ。ある者は金のため、ある者は名声のため。誰にも負けない強さ、自由を貫くための権力、馬鹿にされない地位。それらを夢見て彼らは一人、また一人と世界に挑んでいく。


 冒険者を支える要素として数多挙げられるが、その最たるものとしてやはりスキルの存在がある。

 魔法やスキルはファンタジーものの定番であり、王道だ。誰もが一度は考えるだろう。こんなスキルがあれば最強だと。厨二は最高だ。

 これに関しては聞かなくてもいいくらいだが、もしかしたら現実とフィクションでは致命的な齟齬があるかもしれないので、念のためディアクルーシェに存在するスキルはオレの想像するスキルと違うものなのか訊ねてみた。すると、日本人の想像力ってすごいよねと返ってきた。つまりは問題ないということだな。


 そういえば、ステータスとかそういうのは見られるのだろうか。自分のステータスを見られるというのは楽しみではあるが、ガッカリしそうで怖くもある。まあその時は頑張って上げよう。

 そう思ったのだが、どうやらステータスというか、ゲームのシステムメニューのようなものは存在しないらしい。ちょっと残念だ。



「う~ん、もう粗方聞いたかな」

「これぐらいでいいの?向こうに行ったら二度と干渉できないから、何かあっても文句は受け付けないよ」

「いいさ。最低限知りたいことは知れたからな。それに全部知っても新鮮味がなくなってつまらないだろ?」


 犯人もトリックも解ってる推理小説みたいなものだ。他のやつはどうか知らないが、オレならそれは勘弁だ。


「わからないことがあれば向こうで聞くし、そういうことも含めて異世界の醍醐味だろ。むしろこれだけ優遇されてるんだ。文句はないよ」


 オレが今まで読んだ異世界モノって、基本何も知らない状態がデフォだしな。


「そう言ってくれると少しは楽になるよ。あと補足として伝えておくけど、言葉や文字については心配しなくていい。世界共通語に限られるけど、会話や読み書きは出来るようにしとくから」

「やべっ、確認するの忘れてた。そいつはありがたいな。一から覚えるのは大変だから助かる」

「どういたしまして。じゃあ、最後にもう一度確認させてもらおうかな」


 そう言って神様は表情を引き締めた。今からする質問に真剣に答えてもらう、と。


「話を聞いて異世界がどんな世界か多少なりとも理解してくれたと思う。この世界の平和な日本とは違いモンスターや凶暴な種族がいる。治安だって比べ物にならず、犯罪に巻き込まれることだってあるかもしれない。不便な生活になると思う。ちょっとの病気が命取りになることもある。命の価値が遥かに軽い世界だ」


 神様の最後通告。今ならまだ間に合う、ここがターニングポイントだと、その目が語っている。


「それでも君は異世界に行きたいと思うかい?」


 そしてオレは、


「行きたい!行かせてくれ!」


 そう答えた。


「……君なら、そう答えると思ってたよ」


 こうしてオレは、杉宮一途は異世界へと旅立つことを決めた。





「さて、じゃあ異世界に行ってくれる君に感謝の印としてチートを授けようかな。どんなのが欲しい?出来る限りの希望に応えるよ」


 ここで先ほどの話に戻り、神様がチートをくれるという。

 確かにチートは大事だ。あるとないとじゃ雲泥の差。月とスッポン。豚に真珠だ。

 ……最後のは違うな。

 とにかく、神様が向こうに送る人間にそう簡単に死なないようにと授けてくれる奇跡だ。それは間違いなく便利な能力やアイテムで、多くの人がそれで俺TUEEEEを炸裂させたりハーレムを形成したりするのだろう。

 だが、


「あ、いらない」

「……え?」


 オレの答えに神様が一瞬時間停止した。


「だから、チートはいらない」

「ええええええぇぇぇぇぇ~!!」


 叫んだ。

 何かこの神様随分人間くさいな。これもオレのイメージの影響なんだろうか?


「なんで!?」


 多分、今までの転移者でもらわなかった人がいなかったのだろう、神様はどうしても納得がいかないようだ。

 ならばこちらもきちんと納得のいく説明をしようではないか。


「オレ、チートって嫌いなんだよね♪」

「ワガママか!!」


 失敗した。あれ~、おかしいな。樹雷なら「じゃあ仕方ないよね。あはは~♪」って簡単に納得してくれるんだけどな。


「いや、待って待って。何で嫌いなのかちゃんと理由があるんだって」

「……どんな?」


 神様の目が胡散臭そうにこちらを見ている。

 大丈夫だ。ちゃんと説明すれば神様だって府に落ちるはずだ。


「神様も知っての通り、オレは子供の頃からアニメやマンガ、ラノベを嗜んできた。まあオレの場合は広く浅く色々な作品に手を出してるだけなんで、世のオタクの方々に比肩しうるとは口が裂けても言えないが」

「十分だと思うよ」

「そんな一般人以上オタク未満なオレは、当然異世界モノも結構な数を読んだ。その結果どうなったかと言うと」

「どうなったの?」

「飽きた」

「やっぱりワガママじゃねえか!!」


 また失敗した。何故だ?文月なら「そうよね。いくら愛があっても同じ行為ばかりしてたらマンネリ化しても仕方ないと思うわ。けど安心して私は絶対にいっちゃんを飽きさせたりなんてし」間違えた。あいつは比較に出しちゃダメだ。


「いや別にチートが悪いって言ってる訳じゃないんだ。だけど、もしもそのチートのせいで強くなったりすると、それはそれでつまらなくなるかもしれないだろ?」


 今朝考えてた天才云々の話だ。あの時は凡人側の考え方だったが、下手をすると今度は天才側になってしまうかもしれん。どちらにせよ退屈はノーセンキューだ。


「人生はちょっと変わってるくらいが一番楽しいんだよ。スキルや魔法が使える世界に行ける。それだけでオレには十分だ。」


 そう伝えると、まだしばらくは何か言いたそうな顔をしていた神様だったが、やがて諦めがついたのか大きなため息を吐いた。


「はあ~、わかったよ。そこまで言うならチートは勘弁してあげる」

「悪いな」

「ただし!チートはダメでも何かしらのスキルかアイテムは持っていってもらう。でなければ異世界行きはなし。この話はなかったことにしてもらう」

「なっ、卑怯だぞ⁉」

「これが最大限の譲歩だよ。それにチートでなければ君の希望から外れてないはずだ」


 まさかの脅迫だった。最初はこちらが頼まれる立場だったのに、相手の厚意を受け取らないと行けなくなるとは。交渉事は弱味を見せたら負けだな。

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