第62話 夢と未来
魔法都市までの道のりは難しくはない。
王都より西へ、平野を通り、小高い山脈をくぐり、湿地帯を抜けると、そこは古城と隣り合わせで国境の、強固な要塞を構えた軍事魔法都市。
都市の中央には高くそびえる塔があり、そこには古代より悪気を防ぐ結界が張られており、魔族、魔物の侵入を防いできた。
魔法文化では王国随一の知識が集まり、王都のナイトギルドと並ぶほどの権限を持ったマジックギルドがある。
しかしながら、魔法能力を持った人間の出現は年々減少していて、その勢力はかなり衰えているとも言われている。
リコの長女ユカもこちらで数年間、魔法スキルの修練をしてきたのだと、道中にリコがハナに教えてくれた。
実はハナも微弱ながら魔法スキルを使えるため、図書館で関連書物を読み漁り、かねてより憧れていた街の1つだった。
「こんな形じゃなかったら、ハナちゃんにもゆっくり修行に来てもらいたい街だよね…」
特務隊が魔法都市にいち早く到着した頃、リコが塔を見上げながら呟いた…。
今作戦にはマジックギルドは正式参加は表明していないが、王都やナイトギルドに所縁のあるギルドや冒険者が独自に志願して、あとから数隊が合流する手筈になっているらしい。
アタシ達は協力者と落ち合うために、待ち合わせ場所に来ていた…。
「場所しか指定しなかったけど、大丈夫かな?」
リコが心配そうに辺りを伺う。
(なんでそんなに周りを気にするんだろ?)
その答えはすぐに出た。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、これ」
ハナの足元には年端もいかない少女が手紙のようなものを差し出している。
?
不思議に思いながらもハナはそれを受け取った。
「あ!それよ、ハナちゃん」
リコがハナから手紙を受け取り、中を確認する…
「なぁんですかぁ?それぇ」
シムも意味が判らないらしく、首を傾げている。
「暗号さ」
ダイがポツリと呟く。
「協力者の二人はね、暗躍部隊なのよ。部隊といっても二人だけなんだけどね…」
手紙の中身を確認しながら説明もしてくれているリコ。
アタシ達は丸1日掛かって魔法都市に到着したが、時間的にはまだ昼前、どうやら協力者は夜にならないと街に現れないらしい。
それなら到着もそれに合わせて出発してくれば良かったんじゃ?と質問してみたけど
「王都は遠征前でピリピリしてるから、夜に城門を通ることができなかったのよ」とのこと。
実のところ、ハナという初心者を連れて夜から城外に出るよりも、午後から出発して、夜には安全な場所で一泊して到着するというのが、今回のルート検証で出された提案だったことは、ハナの知るところではない。
日中、夜に協力者と落ち合うまで時間が出来たため、ハナの装備を、この本格的な魔法装備が揃う街で揃えようとリコが言い出して、リコとハナは二人でショッピングに出掛けた。
男ども(ダイ、バト、シム)は宿で休んだり、各自で行動して待つらしい。
ハナは前回のボスカニ退治の報酬で新しい杖を買ってきていたが、衣装は相変わらずの駆け出し冒険者そのものだった。
(聖霊使いにもなったことで、メイスを辞めて杖の装備に変えていた)
「魔法職の装備はあんまり詳しくないけど…、可愛いの選ぼっか♪」
まるで我が子に服を買ってあげるお母さんのような楽しげな顔でリコがコーディネートしてくれた。
純白のロングコートにピンクのラインが入っていて、一目で聖職者っぽく、なおかつ可愛らしい衣装になったハナ。
「ちょっと可愛すぎません?」
ロングコートはいいとして、ピンクのラインって…。
「いいのいいの♪すんごく似合ってるよー可愛い♥」
絶対楽しんでるだけだ、この人w
完全にリコの趣味コーデになったが、ハナはそれでも嬉しかった。
こうして買い物をするのも久しぶりだったし、リコさんの趣味も知ることができて、また一歩、親しく近くなったような気分になれた。
それにもう1つ、魔法都市に来てからはこの街そのものの魔法力が多いせいなのか、聖霊の声が意識をしていなくても度々聞こえてきて、まだ完全に召喚したり出来ないハナでも"ホーリーベル"と会話することが出来ていた。
「マスター」
声が通ることが判って、嬉しそうにホーリーベルが話してきてくれる。
「ベルちゃん、こんにちわー」
※正確にはテレパシーのようなものでハナとホーリーベルのみの会話
「コンニチワ、マスター」
ホーリーベル(ベルちゃん)は契約後からはハナを"マスター"と呼ぶようになっていた。一方ハナも"ベルちゃん"とあだ名を付けて呼んでいる。
ベルちゃんはキラキラと聖霊の光のようなものを散らしながら、ハナの周りをクルクル飛んでいる。
ちなみに聖霊は基本的には契約者にしか見えないし、聞こえない。
以前バトが「どうせ見えん」と言ったのはこの事だ。
どうやらベルちゃんはロングコートに着替えたハナを気に入ったらしく、嬉しそうにまるで音楽を奏でているかのよう、優雅で伸びやかに飛び回っている。
(聖霊にも美的感覚があるんだぁ、んでもってベルちゃんはリコさん寄りか~)
契約後はベルちゃんが見えるようになり、その姿にハナは驚かされた。
それは聖霊というより、妖精。
ベルちゃんは小さな人間同様の姿をしていて、透き通る羽が4枚、背中から生えている。
シルバーブロンドの輝くロングヘアーが印象的で、ガラス細工のように光るスカイブルーの瞳がとてもチャーミングな聖霊だった。
童話などに登場する"シルフ"を彷彿させる可愛らしい容姿をしている。
盛んに"マスターマスター"と呼んでくれる健気な感じもハナには"どストライク"で、可愛くて仕方なかった。
そんなベルちゃんに意識しなくても会える環境の街"魔法都市"。
到着時リコが言っていた「ハナにはゆっくりと魔法を学びに来てもらいたい」という言葉も重なって、ハナはこの街にいつか訪れて生活してみたいと、この時に予感も含めた希望を抱いていた…。
「夜になるね…」
リコが夕陽を見ながら呟く…
楽しい時間は過ぎるのが速い。
リコさんと買い物をしたり、ベルちゃんとお喋りしたり、重要で危険なクエストの直前に叶えることができたハナ。
(明日は古城に乗り込むんだ…)
小さなハナは冒険者になり、小さな恋も、小さな夢も叶った。
あとは失われた記憶と、これからの未来。
オヴェリア姫の導きはハナの望む未来と交差しているのだろうか…
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