第61話 回る世界


 アビスヘイム攻略を3日前にして、騎士団は正式に街へ大規模遠征の公表をした。


 準備に追われていた武器商人達には知られていた事だが、公に出したのは今になってである。


 街の至るところの掲示板に告知が出され、王都は一気に慌ただしくなった…


 "来る3日後の早朝よりサーズ騎士団は悲願のアビスヘイム攻略に向け進行を開始することを決定した。

 これにともないナイトギルドでは志願者を募集する"

 といった内容のもの。


「とうとうこの日が来たか…」

 ライが窓の外を見ながら呟く…

 アカデミーでもほとんどの生徒、講師が参加する。

「無事に帰って来れますかねぇ~」

 シムが挨拶に来ていた。

「特殊任務隊として、頑張ってよね、シム」

 ユカも心配そうにシムに語りかける。

「うん。頑張ってきますよぉー」

 いつもと変わらぬ表情でシムはアカデミーを後にした…。


 ※特殊任務隊とは、主にアキムギルドメンバーで構成された"聖石捜索部隊"のこと。

 リコ、ダイ、バト、シム、ハナそして現地の協力者2名によって編成される。


 一方、臨時志願者を募集したナイトギルドは対応に追われていた。

 カヨも遠征部隊に参加するが、今はそれどころではない。

 臨時志願者に魔族の手の者がいないか、小隊編成でパワーバランスが乱れないかなどなど、ナイトギルドとしての務めがギリギリまで山ほどある。


 渦中のアキムギルドはうってかわって平和だった。


 特殊任務隊はアビスヘイム城(以外"古城")の裏から侵入し、オヴェリア姫の埋葬された地下墓地を目指す。


 魔族は聖石に手が出せない、人間が簡単に入れるような場所ではないことから、聖石はおとぎ話の通りにオヴェリア姫の棺桶に安置されていると断言してもいい。


「なんか…アタシのせいで街が大変なことになってる?」

 告知によって様変わりした街を心配そうにするハナ。


「それは違うよ、ハナちゃん。これは騎士団の決定なんだから」

 リコが咄嗟にフォローする。


「うむ。そうだな。俺達も騎士団預りの特殊任務を請け負ったに過ぎない」

 いつものように腕を組んで歯切れよく話すダイ。


「魔法都市で落ち合う二人には話が付いてるから、安心して」

 会うのは久しぶりのサエ、結婚を決め、非公開だが騎士団員の彼と正式に入籍も果たしたという。

 今回の件ではずっと街にいながら可能な限りの情報収集、協力者との連絡役をやってくれていた。


「協力者って?」

 他の街に知り合いがいるのかな?とハナ。


「昔私たちがギルドとして駆け出しの頃にね、軌道に乗るまでって手伝ってくれた冒険者がいたの。今では魔法都市に拠点を移してたから、協力を要請してたのよ」

 信頼できる仲間だとリコが説明してくれた。


「俺達の出発は騎士団より早い、明日の昼頃には出るからな。各自挨拶しておきたい者には会っておけよ」

 ダイが皆に聞こえるように言う。

「シムはさっさとアカデミーに言ったみたいねw」

 らしいなぁと笑うリコ。

「まだ学生気分が抜けてないんだ、あいつは」

 厳しく吐き捨てるように聞こえるが、口元は少し緩んでいるバト。


 バトさんは最初は堅苦しい騎士のようだったけど、話せるようになって(パートナーになって)、ようやく彼の事が解ってきた。

 ただ口数が少ないだけってことに。


 そうだ、ヒロちゃんに会ってこなくちゃ!


 ハナはギルドメンバーにヒロに会いに行くと告げ、街に出た。


 それぞれの時間が過ぎていく…


「これで…いいのよね?」

「そう信じるしかない。未来もな」

 ギルドメンバーが居なくなって二人きりになったリコとダイは少しだけ会話をしてから、二人も最後に会うべき者達の元へと帰っていった…。

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