第60話 希望の光と大いなる闇


 地竜が山から降りてきた理由は定かではない。


 だが、アビスヘイムに魔物が集結しつつあるのは事実。


 地竜ほどの高貴な魔物でも悪気によって引き寄せられていたのかもしれない…


「どのみち調査はここまでだ、王都へ帰還した方が良さそうだな」

 ダイが率先して情報集めをしていたが、手懸かりは皆無、帰還命令を出した。


「そぉだねぇ、ハナちゃんもそろそろクエスト終わってるんじゃなぁい?」

 地竜撃退でかなりリラックスしているシム

「うるさいシム」

 相変わらず二人のやり取りは漫才のようだ。


 これから待ち受けるであろう激戦の前に3人は連携を確認することが出来た。

 それでも魔族の強力な悪気と対峙できるかは解らない。


「聖石を見つけ出しハナの能力解放がアビスヘイム攻略の鍵を握ってるかもしれんな…」

 帰路の途中、ダイがおもむろに口を開く…


「なぜです?」

 眉間にシワを寄せてダイに質問を返すバト。


「ハナの力がオヴェリア姫のソレだとしたら、それは光魔法だからさ。魔族に対抗できる強力な力だ」

 確信はない。だが可能性はあるといった口振り。


「そんな強力な力をあんな小さな体1つに委ねるのか…」

 転じて暗い顔をするバト…


「どう転ぶか、それはハナに掛かってるが、俺達にも出来ることはあるはずだ」

 もちろんダイもハナ独りに背負わせようなどとは思っていない。


「とりあぇずぅ、神がかり的な瞬間に立ち会えそぅなんですねぇ~」


「シム…お前なぁ~」

 少し呆れて小さな溜め息混じりにダイが諭す…


「判ってますよぉー、仲間は全力で護る。それがアキム騎士団でしょ~」


「そうだ…、俺たちは必ずハナを護り、アビスヘイムを攻略しなければならない」

 決意の面持ちのバト。


「俺達はそれぞれ数回にわたり、魔族と交戦しているメンバーばかりだ。その経験が悪いようにはならないさ」


「ダイ班長はぁ砂漠の町でぇ、僕とバトさんは魔の巣窟で出会ってますよねぇ~」


「キル…、俺はあいつとも戦っている…」

 目の前でハナを傷付けられた因縁の相手…


「消息不明のアキム隊長のことも手掛かりが掴めるといいんだが…」

 アビスヘイムがある北西の方角に向かって遠い目をするダイ。


「魔族かぁ…、次は一撃でも与えたいなぁー」

 以前戦ったときは手も足もでなかったシム。


「仕留めるつもりで行け、アホ」

 容赦ないバトの突っ込み。


 …………

 約6日間の遠征を経て、3人は王都へ生還した。


 バトは整容のためとダイから1日休暇を貰っていた。


 何気なく訪れた湖畔。

 ここは初めてハナに出会った場所、正確には魔物を退治しただけなのだが…


「バトさん…?」

 聞き慣れた声だが約1週間の遠征のあとで懐かしさもあった。


「やっぱりバトさんだ!おはよう!なんか久しぶりだねー!」

 バトだと認識すると途端にテンションが上がって駆け寄りながら喜び叫ぶ、笑顔が溢れんばかりの小さな少女。


「…ハナ」

 複雑な思いでなかなか言葉が出ないバト。

「はい!」

 元気がないバトなど気にも止めないように、ただ無邪気な笑みで大きく返事を返すハナ。


 そんな笑顔を見ていたら、あれこれ考えてた事が馬鹿馬鹿しく思えてきて、バトも微かに貰い笑顔をしていた…


「あー?笑ってる?笑ったー?バトさん」

 嬉しそうなハナ。


「…知らん」

 照れ隠しに湖畔の方を向いてハナに背を向けるバト。



 すると、ハナはそっとバトの背中に寄り添った…

「会えて良かった…」


「クエスト成功したんだってな。頑張ったなハナ」


「うん…バトさんも、ドラゴンと戦って来たって聞いて…還ってきてくれて良かった…」

 グスグスっと背中からすすり泣きが聞こえる…


 まぁ…こういう涙は多目に見るか…とバト。


「俺はお前のナイトだ。お前のため以外で死ぬかよ」

 不器用な男なりの決め台詞…のつもりだったが…


「アタシの為でも死んじゃダメですー!」

 背中から腕を回してギューっとハナは抱きついた。


 バトの思い描いたリアクションではなかったが…

「当たり前だ、バカ」


 ハナは「エヘヘー」とまた無邪気な顔で笑っていた…


「アタシねー!聖霊と契約したんだよー!」

「なんだそれ?」

「知らないのー?」

「知らん」

「見せてあげよっか?」

「いい、どうせ見えん」

「あ、そっか!邪心がある人には見えないんだったねぇ~」

「なんだと!」

「うそうそ!でもまだ自由に呼び出せるほど上達してないの」

「話にならんな」

「あー!馬鹿にしたー?!」

「ふん…」

「もぅ~」


 ………………


 アビスヘイム攻略を数日後に控えた二人にとって、欠けがえのない時間を過ごしたのだった…

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