第58話 荒野の3人と1匹


「ヤツは西へ消えていった…」

 用心棒の彼からもたらされた情報はそれだけだった。


「情報は少ないが、これ以上犠牲を出すわけにもいかん。進むしかない」

 行くと決まれば先陣を切って指揮をしてくれる、ダイはとても頼れるアニキ分なのだ。


「はぁーい」

 魔の抜けた返事だが、シムはちゃんとダイを尊敬している。なんだかんだと自分達を導いてくれているのは他ならぬダイだからだ。


 サバンナはほぼ砂漠地帯と同じで地面は砂だらけ、巨大なトカゲならば足跡が残りそうなものだが、さらさらの砂には何も残っていなかった…。


「戦闘したんなら水を欲しがるはずだ」

 バトがトカゲの習性を元に意見する。

「うむ、そうだな。水辺か森を探そう」

 ダイはバトの冷静な分析を頼りにしている。

 先入観をほとんど無くした彼の意見は迷ったとき、悩んだときにとても助かるのだ。


 南は広大な砂漠が広がっていて、トカゲだとすれば体の大きさからして、砂地獄に自ら入ったとは考えにくい。


 ましてや、わざわざフェイントで西ではなく、北上したなどとは考えられない。


「西にはピラミッド付近にオアシスや近辺に水分を蓄える森がある。そこへ向かったと考えて良さそうだな」


 行き先をほぼ西の1択にして、3人は速足で進む。


 …………

 オアシスが遠目に見えてきたとき、3人は目を疑った!


「おいおい…まじかよ」

 ある程度は予想していたが、これほどまでとはと動揺を隠せないダイ。


 そこにはオアシスにどっぶりと浸かって水を補給(水浴び?)をしている地竜がいた!


「あぁとでギルドに超級クエストにぃ書き換ぇてもらわなぃとねぇー」

 いつもの口調のようだが、どこか声が震えているシム。


「何が相手でも、やるだけだ!」

 なぜかやる気マンマンのバト。


 見るからに分厚く固そうな皮膚、トカゲと思うのも無理はない。

 竜属ならば鱗を連想するが、こいつはまさにバカデカイとかげそのものだった。


「"陣形ランス"!チェインのタイミングは逃すなよ!」

 ※チェインとはスキル攻撃を繋げて打ち込み、より相手に大ダメージを与える連携攻撃。


「がってーん!」

 シムの返事を待たずに先頭のダイは大斧を振りかざし走りだしていた!

 続くようにバトが大剣を構えて駆け出す!

 慌ててシムは二人に続く、だがこれがランスの陣形であり、決してシムが遅れを取ったのではない。


『ブゴォォォォ!』

 水飲みを邪魔されたのが気にくわないのか?、人間そのものを敵視しているのか?

 地竜は目を血走らせてこちらを凝視している!


「おぉらぁぁ!」

 ダイの初撃の一振り!

 地竜はとっさに皮膚の厚い部分でこれをいとも簡単に弾き返す!


「っ!分厚いな!」

 反動で腕が痺れたダイは一旦後方に引く。

 3人は進行を止め、トライアングルになり、次の一手に備えた!


 地竜は身をよじり、勢いよく全身を回転させた!

 オアシスの水が全て無くなるんじゃないか?!水飛沫が3人に向かって津波のように押し寄せる!

「うわぶっ!」

 飛沫を被ったシムがベタなリアクション。


「スラッシュ!」

 地竜を見失わないようバトがスキルで水壁を切り裂く!


 ?!

 霧状に飛び散った水壁の向こうから黒く鋭い鉤爪が襲ってきた!

 水飛沫が地竜のフェイント攻撃だった!


「サークルパリィ!」

 大剣を回転させ、さらにその回転を利用した受け流しスキル!

 スキル考察を続けてきたバトならではの合体技!


 しかし、地竜は止まらない!

 先の左前足が引くよりも速く、右前足の鉤爪が先頭のダイに襲いかかる!


「マキシマ!」

 シムが俊足で地竜の頭部に飛び込んで一閃!

 鉤爪が一瞬遅くなった所へ

「ブロード!」

 ダイの範囲防御スキルでこれをはね除けた!


 なんとか地竜の強襲を退くも、3人の陣形は乱れてしまった!

 正面にダイ、向かって左にバト、地竜の右横に着地したシムだけが少し遠い。


「班長ぉー、刃が通らないよぉ、どうするぅー?」

 離れたところからシムが指示を仰いだ。


「分厚い箇所で防御姿勢を取る動きがある、俺が陽動する!」

 ダイが大斧を力強く握り直しながら応えた。


 狙うのは防御姿勢の時、逆側に生まれた隙の皮膚の薄そうな所。

 どんな生き物も関節がある限りはそこだけは固くならない、動かす以上は必ず柔らかい部分が存在する(はず)


 バトは一撃を意識して気を溜める!


 ダイが先手を取ろうと飛び出した!

 しかし!


 ドガン!

 と、大質量の何かでダイは右横から打撃を受けて左後方へ吹き飛ばされた。

 幸い右利きであったため、大斧に当たりダメージは少なそうだ。

 地竜は素早く体を廻し、尻尾でダイを凪ぎ払っていた!


 一番至近距離にいたはずのシムには被害は無かった。

 デカイ図体のわりにはコンパクトに全身を回転させられるらしい。


 攻撃速度そのものは速くはない。だが反応速度と柔軟性は高い!


 折り返した尻尾でシムを狙うが、ダイへの攻撃を見ていたシムは素早くこれを回避、さらに右前足の鉤爪でバトを攻撃!

「サークルパリィ!」

 バトはギリギリの所で再び防御スキルで受け流す!


「ひょーあぶなぁい」

 後方回避でより遠退いてしまったシム。

「なんつう反応速度だ!」

 体制を整えながら苦笑いのダイ。

 防御スキルしかさせてもらえず身動きが取れないバト。


 両者一進一退の攻防が続く!

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