第41話 トライアングル
「今は新しい校舎を建ててるんだよ、もうすぐ完成なんだ」
ライはギルドホールを案内しながらシムに雑談をしていた。
「ギルドをそのまま学校に…すごぉーぃですね~」
中等時代はひねくれていたが、なぜかライには心を開き、素直に応えることができているシム。
"責任を持つ"
そんな言葉を今まで言ってくれる大人は居なかった。
能力に嫉妬され、罵倒や陰口を叩かれた…
シムの同級生や大人への偏見は中等時代に固まってしまっていた。
「なぜ本気にならない?シム君」
ライが核心を突いた質問に切り替えてきた。
他の大人だったら応えなかっただろう、しかし、シムのライへの信頼は既に高かった。
「本気…でしたよぉ、最初は…」
シムの身辺を一変させたのは中等で行われた能力適正検査だった。
小さいときから道場などで多少の剣術は学んでいた。しかし、その程度の子供は山ほどいる。
外には魔物がうようよいるのだから、当たり前のこと。
中等で行われる"能力適正検査"の大きな違いは対象の生徒に"力"があるかどうかを見極めるためにある施術を行う。
それによって飛躍的に能力を解放させられたシムが出した能力は剣術における"超優秀"という結果だった。
「なんでお前なんかが!」
「平民のくせに!」
毎日のように訓練して努力している者、
騎士の家に生まれたがゆえに背負うものがある者、
さまざまな理由からシムは嫉妬の対象となってしまった。
元々気の弱いシムは心を閉ざすことで解決させ、その能力を中等時代に使うことはなかった…。
ライの言葉で当時を思いだし、シムは黙りこむ…。
「今日、ギルドホールに来たのは実は会わせたい奴がいるんだよ」
「会わせたい…人ぉ?」
ギルドホールのロビーのようの少し開けた部屋に一人の冒険者が座っている…。
「待たせたな、ログ」
ライが声をかけるとログと呼ばれた冒険者はこちらを向いて立ち上がった。
身なりからはモンクだろうか?
動きやすそうなローブを身に纏っている。
「こんにちわぁー」
シムは相変わらずの癖のある口調で挨拶した。
「初めましてだな。俺はログ。よろしくな」
背が高く、腕っぷしも強そうだ。
なにより気になったのがオッドアイ。
銀色と金色と表せば伝わりやすいのか、彼の瞳はそれぞれ違う色をしていた。
それだけじゃない。
彼からは恐れ、苦しみといった感情が流れ出ているような感覚を受けた。
「やっぱりな…、シム君、君はログの正体に気付いているのだろ?」
何かに納得しながらライが話す。
「そうか、君は"見える子"だったのか…」
(見える…?二人は何を言ってるんだぁ?
確かにログさんにはただならぬ気配を感じる…。でも、魔族だとしたらこんな場所にいるわけがない!)
「それは彼が"天魔"だからよ♪シム君!」
どこからともなく女性の声?!
「ユカ、居たのか。人が悪いなぁ」
ライが声のした方に向かって悪態をつく。
ユカさん…。ギルドマスター?!
「ようこそ、アカデミーへ♪私がマスターのユカよ」
いきなり大人3人に囲まれる形になったシム。
「よ、よろしくぅお願いしまぁす」
3人が並ぶと、それぞれの能力の高さが余計にはっきりと見てとれるようだった。
「そうだ、俺は内に天使と悪魔の血が入っている。それを見抜ける君は素質があるという意味なんだ」
ログは穏やかな顔でとんでもないことを言ってのける。
「いきなり混乱させちまったかな?シム君が本物かどうか、ログに会わせれば判ると思ってね」
片手で手を振り上げ"ごめん"という合図を送るライ。
「い、いえ…。ただ僕にぃ皆さんのよぅな力があるかどうかぁ…」
「それは君次第よ♪」
陽気に答えているがユカの言葉は深い意味を持っている。
僕次第…
本気になっていいと、こんなにも軽く背中を押してくれる大人がいるなんて思ってもいなかった。
この3人になら付いていけそう、いや、付いて行きたい。
中等で避けてしまった"学び"をこのアカデミーで取り戻したいとシムは心に誓うのだった。
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