第40話 天才剣士


 "アカデミー"


 そう呼ばれる施設が出来たのは数年前のこと…



 とある女性ギルドマスターがギルドでも初心者サポートを主体に活動していたが、より多くの冒険者育成を掲げて設立された学校がアカデミーである。


 この女性が初心者サポートを始めたきっかけは、ある苦い経験から…

 南砂漠の町が魔族に襲撃され"消えた"事件を機に、彼女は失った有能な騎士達の分まで若手の底上げを第一に考えて活動をしてきた。


 この年、中等を卒業した騎士の卵達の中に、一際異端な剣士がいた。


 名前は"シム"


 適正検査は"超優秀の剣士適正"でありながら、中等の試合などでは無冠、なにより練習試合にも出場すらしていなかった。


 卒業時点の成績も平凡で、騎士団への入隊はしていなかった。


 毎年、騎士団に入れなかった者や、ギルド所属が決まっていない者など、無所属の冒険者はすべて受け入れるようにしていたアカデミーは、彼にも目をつけていた。


「君がシム君だね?俺はライ。アカデミーの教師をやってる」


 冒険者ギルドで何をするわけでもなくテーブルでマッタリしていたシムにライは声をかけた。


「え~?アカデミーさんが僕になーんの用ですかぁ?」

 クセのある喋り方。

 わざとなのか、微妙に上がったり下がったりするイントネーションとゆっくりした口調。

 人によってはイライラしてしまうだろう…


「君は所属が決まっていないだろ?どうだい、アカデミーに来てみないか?」

 これまでも何百人という冒険者を見てきたライはこの程度の口調など気にも止めない。


「へぇ~…僕に剣を教えれるの?」


 クセのある口調が一変、真面目な低い声となってライに返ってきた。


「どうゆうことだい?悪いとは思ったが君の卒業時点の成績は見せてもらったよ、教えれるって??」


 ライは彼の隠された真実を知るわけが無かった。当たり前のこと。


「止まって見えるような人達と一緒に練習なんてしたくないんだよねぇ~」


 ?!"止まって"


 どうゆう意味だ?

 一瞬思ったライだったが、もう一つの可能性に気付いた。


 天才だとしたら、どうだ?


 それは天才であるがゆえに、周りの動きが全てスローのように見えてしまい、まるで相手にならないほど弱い。

 彼はその苦悩の果てに、試合などの成績が残ることをせず、極端に目立つことを避けて卒業したのではないか?と。


 それを裏付ける情報としてライは2年前に中等適正検査で"超優秀"を出したが、その後の成績がまったく明るみになっていない剣士の噂話を聞いたことがあった。


 彼は彼なりに苦労してきたのだろう…

 天才だとしたら同級生など、相手になるわけがない。


 だがライには確信もあった。


「君を見てあげられる施設はアカデミーだけだ。俺が責任を持つ。」


 嘘偽り無い真っ直ぐな瞳は少年の心を揺れ動かした。


「ライさんでしたっけー?…まぁ、その…よろしくお願いしますぅ」


 シムはこれまで天才というだけで、同級生には無視され、大人には遠慮がちに対応されてばかりだった。

 天才とは孤独なものだ、なんて言う人がいるけれど、孤独にさせられているだけの話だ。

 ライはそんな今までの人達とは違っていた。


 僕にも学べる場があるのかも?


 シムの心は踊っていた。

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