第39話 三姉妹物語~その背中を追いかけて

 審判「決勝戦、はじめ!!」


 武道場の中央で観客に囲まれながら、二人だけの頂上決戦が始まった!


 相手は短めの片手剣士、小剣使いとでも言うのだろうか?

 素早い連撃でスラッシュを浴びせてくる!


 三女「っ…速い!」


 チーコは両手にカタールを装着しているため、防御も巧みに出来るが、小剣の速さはそれを持ってしてもギリギリだった。


 速さを加えたスラッシュの連撃を受けてしまえばひと溜まりもない。

 現に今までの彼の勝ち星はそうして作られてきていた。


(受け身のままじゃダメだ…)


 食らいつくようにこちらからも斬りつけに掛かる!

 しかし、どうしてもうまく入らない!


(なんで?!大剣の人達よりやり易いのに、見切られてる…?)


 相手「スラッシュ!」

 まずいっ!

 間一髪後ろへ飛んで避けられたが、スキルは受けちゃダメだ。


 お互い距離が開いて、再び仕切り直しとなった。


(私の間合いのはずなのに…)


 焦りから目がこわばる…

 ふと、対戦相手の口元が緩んだように見えた。


(ハッ!そうか!私がやり易いってことは相手もやり易かったんだ!間合いが同じってことなのね!)


 お互い接近戦が得意な武器、技を出しやすい距離感も同じ。

 やり易さを感じてしまっていたのは、相手との間合いだけで、それは同時に相手にも攻撃のチャンスを与え続けたってこと!


(自分のペースにしなくちゃ…)


 諦めず前傾姿勢で対峙するチーコ。


(練習はしてきたから…、やるしかない!)


 二人はぶつかり合うように接近戦で打ち合いを再開した!


 木製武器の打ち合う音が激しく武道場に響き渡る。

 観客は息を飲んで二人の決戦を見守っていた。


 チーコの度胸がほんの少し相手より上回ったとき、勝負は決した!


(もぅ1歩!)

 さらに距離を詰めることは相手に斬ってくれと言っているようなもの、だが、その1歩が無ければチーコには出せない技があった!


 相手「スラッシュ!」

 三女「パリィ!」

 スキル同士の攻防!

 より激しくなる打ち合いの中、チーコが踏み出す!

 頭1個分さらに前に出てきた彼女を相手は見逃さない!

 渾身のスラッシュをお見舞いしようと振りかぶった!

 コンマ1秒の駆け引き!


 三女「ヘキサブロウ!」

 瞬間的に6連撃を超接近で打ち出す大技!

 威力は出ないがその速さを目で追えたものはこの会場でも数人しか居なかったであろう。

 相手「ぐっ!」

 怯んだ相手は負けまいと次の攻撃を打ち込んでくる!

 チーコはこれを待っていた!

 計算し尽くされた攻撃ではなく、焦りから来る衝動的な攻撃、そこには必ず隙が生まれる!


 右利きの相手の死角は左脇!

 チーコは体を反らしながら捻り、相手の左脇から背後に回り込んだ!

 超接近でありながら、敵の背後を取る回り込み、チーコが自ら編み出した技で"ターンスライド"と名付けていた。

 三女「バックスラッシュ!」

 背中に強烈な一撃を受けて相手は倒れた!


 審判「そこまで!」


 わあぁぁぁぁぁ!と歓声が上がる!

 戦闘職の試合で女子が優勝するのは久しい、ましてや今まであまり知られていなかった武器、スタイル、そして最後の大技、チーコは瞬く間に時の人となった!


 騎士「見つけちまったかもな、金の卵を…」


 歓喜に沸いた会場も静けさを取り戻し、試合は終わり、観客達もほとんど居なくなっていた…、残っているのは数人、三姉妹もまだそこにいた。


 長女「チーコやったわね!あんな大技、自分で編み出したの?!」

 次女「本当に素晴らしい試合でした」

 三女「あはは…、実戦で使うのは初めてだったけど、巧くいって良かったよぉ」


 三姉妹が話している所へ、一人の騎士が近づいてきた…


 騎士「突然すまない、試合を見させてもらったよ」


 年は10は上だろうという騎士、休日などを利用してこういった試合を見に来る大人の騎士もいると聞いたことはあるけど、彼の見た目はかなりの手練れであることを物語っていた。


 長女「どちらさま?」

 すでに一人前の冒険者でもある長女は屈強な騎士が相手でも物怖じしない。


 騎士「俺はサーズ騎士団近衛副隊長をやってるダイという者だ。君を近衛にスカウトしたい!」


 長女「近衛?!」

 次女「え?!」


 近衛…、王都最強と呼ばれる騎士団長の御抱え部隊…。

 二人の姉は驚きで顔がひきつっていた…。


 詳しくはまた王宮で話そう、ということになり、その場は別れたが、チーコの気持ちは決まっていた。


(あのとき、あの人の背中に誓った…。私は近衛に入って、さらに上を目指す!いつか、あの人に…)


 ――――――――


 時は流れ、チーコは中等を卒業した。

 ダイ副隊長との話し合いは順調に進み、チーコはすぐに近衛に迎えられる身であった。


 この日は初めて近衛隊が集まる詰所に顔を出すため、王宮に来ていた。

(この扉の向こうにまた1つ新しい世界がある…)


 それほど重くない扉だったが、彼女にはプレッシャーから岩のような重たい扉に感じた…。


 ダイ「待ってたよ。紹介しよう、俺達の隊長、つまり騎士団長だ」


 チーコは生まれて初めて人を見るときにスローモーションになるという錯覚を知った。


 三女(?!)


 忘れもしない、騎士団長と呼ばれた騎士は"あの時"の騎士、オズだった!


 オズ「話はダイ副隊長から聞いてるよ、君を歓迎する、自己紹介してもらえるかな?」


 チーコは溢れそうな涙をぐっとこらえ、真っ直ぐに彼を見て応えた。


「リコ・セイクリッドです!よろしくお願いします!」


 華奢と言われ、無能判定を受けた少女は逆境をはね除け、この日、王都最強の騎士団"近衛小隊"に入隊した。


 その背中を追いかけて、彼女の人生はまだ始まったばかり…。


 三姉妹物語~完~

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