それぞれの想い
第34話 サーズ騎士団
ダイは古巣の騎士団に来ていた。
もちろん旧友を頼って、アビスヘイム攻略に協力してもらうため。
正確な呼称は「サーズ騎士団」なのだけど、騎士団という組織が私設ギルドの名称以外では存在しないためか、騎士団という呼び方で広く使われている。
サーズとは、3番目ではなく、創設に大きく貢献した騎士の家名にあやかっていると言われている。魔族の進行を食い止め、敵の目を集める特殊スキル"ウォークライ"を使い、民を守った伝説の騎士"サリウス"
サリウス家はとっくに離散してしまったけれど、スキルを継承した冒険者がまだ生存しているという噂もあるが、すでに都市伝説となっている…
ダイは騎士団がある王宮の奥の間までやって来ていた。
「久しいな、カル」
奥の間、立派な装飾が施された部屋で一人座っている騎士に話しかけるダイ。
「ダイ…珍しいですね、貴方から来るなんて」
「たまには同期の顔くらい見に来るさ。騎士団長殿」
「その呼び方は二人きりの時はやめてくれよ」
苦笑いで返すカル騎士団長。
「顔を見に来たなんて、口実だろ?最近になって頻発する地震について何かあったか?」
「察しがいいな、さすがだよ。あの日の生き残りだけのことはある」
「何かにつけてあの日を持ち出すのは変わらないな、ダイ、まぁお前は副隊長だったし、特別に隊長に思い入れが強かったしな」
「カル、お前もあの日の目撃者だ、これから話すことは内密にして、用件だけを聞いてくれないか?」
「おいおい、騎士団を預かる者に嘘をつけと言ってるのか?」
「そうじゃない。アキム隊長の忘れ形見と言えば解ってくれるか?」
「?!あの娘が…?!」
途端に目を見開き声が高ぶるカル。
「今や冒険者になって、俺達のギルドのメンバーだ」
「そんなに時が過ぎていたか…、だが記憶を無くして身内の家に引き取られたはずではなかったか?」
「確かに記憶は失っている。が、夢にオヴェリア姫が出てくるのは続いているらしい」
「アビスヘイムに行こうとしているのか?」
みるみる顔色が険しくなるカル。
「姫様はそこに聖石があると言ってるらしい」
「アビスヘイムの魔物の数は全盛期ほどではないが、まだその戦力は強大だ…騎士団を派兵しろと?」
「ここ最近の地震はアビスヘイムの崩壊の前兆なのはほぼ間違いないだろう、魔界へ堕ちてしまったら手も足も出せなくなる、カル、協力してくれ」
「…難しい判断だ…数日くれ…」
「わかった。いい返事を期待してるよ、旧友」
振り向き、部屋を出ていくダイの後ろ姿にカルはもう一言だけ問いかけた…
「あの娘をお前は今でもオヴェリア姫の生まれ変わりだと信じているのか?」
「もちろんだ」
チラっと首だけ振り返り、迷いなくカルに答えて部屋を出るダイ。
重厚な扉がしまり、一人になったカルは腕を組み、より一層険しい顔で考えていた…
「アキム隊長…あなたという人はどこまでも我々に試練を与えてくださる…」
ダイの元へ返事が帰って来たのはこの日から3日後のことだった…
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