第32話 揺れる大地

 ゴゴゴゴ…


「最近地震多いね…」

 不安げにヒロが呟く。

 この日はヒロがお見舞いに来てくれていた。


「なんだろね?怖いなぁ」


「冒険者さん達の話だと、アビスヘイム辺りが震源地らしいよ」


「アビスヘイムが?」


「不確定情報だから、解らないけど…また魔族の進行とか起きなきゃいいよねぇ…」

 街のクエスト紹介所に集まる情報だけではなんとも言えないと、ヒロは首を振る。


(まさかアタシがアビスヘイムに行こうとしてるなんて、ヒロちゃんには言えない…)


「ねぇねぇ、それよりさっきのお姫様の夢の話の続き聞かせて!」

 おとぎ話を聞く子供のように無邪気な表情でアタシの話を聞いてくれる。ヒロのこういう聞き上手な所がハナは大好きだった。


「ヒロちゃんは"聖石"って、聞いたことある?」


「おとぎ話の光る鉱石のこと?…んー、街では聞いたことが無いかな~?」


「そっか…そうだよねぇ、おとぎ話だもんね」


「でも何か判ればすぐに連絡するよ!」


「うん。ありがと!」


 休憩時間に来ただけだからと、ヒロは仕事に戻っていった…。


 病室は個室だったこともあり、独りになると妙に落ち着かない…


(早く退院して、まずは元気クッキー焼きたいな~)


 今日は曇りで外を見ていても気持ちが乗ってこない…


 そこへ…


「少し、いいか?」


 身体中の血が顔にだけ来たみたいに熱くなる声の持ち主…。


「ば、バトさん?!どうしたの?」

 以前、ギルドメンバーで来てくれた以来だった。

 どうやら今日は一人のようだ…。


「ちゃんと謝りたかったんだ…。いつだったか砂漠のクエストにハナが行った時に怪我をして帰って来たよな?」


「ぁ…うん」

 あまりにも不甲斐なくて、出来れば思い出したくない恥ずかしい思い出…


「キル…いや、キリにでかい口を叩いておいて、俺も後衛のハナを護れなかった…すまない」


「そんなこと…」


「忌むべき相手を前にして動けない騎士など滑稽だ…」


「アタシこそ、ずっと前に生きる覚悟だけなんて言ったのに、自分から無茶しちゃって…ごめんなさい!」


 二人して頭を下げている。


 一瞬、時が止まったかのような時間が生まれ、次には二人して笑いだしていた。


「あははは、お互い様になっちゃったね!」

「ふふ…、そうだな。」


 ?!


「笑った!」


「な、なんだよ?」


「うふふ、バトさんが笑った!」


「2回も言うな!それに気持ち悪い笑い方するなよ」


「気持ち悪いとは何よー!」


「それだ、やっぱりハナは笑顔が似合う」


「え…」

 どっかーーーん!

 頭が噴火した!

 もう耳や小指の先まで真っ赤になっているんだろう。

 熱くて熱くてどうにかなってしまいそう!


「ハナ、俺のパートナーになってくれ、俺がハナの手となり、足となって全力でお前を助ける。」


 こ、これは?!

 世に言う所の"告白"ってやつじゃないの?!


「よ…、よろしくお願いします!」


 嬉しさのあまり、ちょっと大きすぎる返事をしてしまった!



 ハナ、16歳の秋。

 人生で最良の時を迎えていた…。


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