第28話 騎士の誓い
廃屋で待機していたダイ、サエ、シムが駆けつけ3人を救出、バトとハナは速やかに診療所に運ばれた…。
リコは片時もハナから離れようとしなかった。
「もう2度とあんな想いをさせないって誓ったのに…」
傷の治療は終わったが意識の戻らないハナの横でうわ言のように繰り返すリコ…。
「記憶が無くなっていて少しだが安心していたんだがな…」
様子を見に来たダイが後ろからリコに話しかける。
「…私が冒険者になることを薦めてしまった…、私のせい…」
酷く落ち込むリコの顔には涙が光っている…。
「俺も当事者だ…、お前だけには背負わせないさ…」
「もう私…、ハナちゃんには会わない…」
「リコ、それは違うぞ、今ハナから離れても回復したらきっと父親を探す、そうなれば護れるのは逆に俺達だけだろ?」
「この子…、テレポートを使ったの…、また無意識なんだろうと思う…」
「あの時と同じか…」
深いため息で遠くを見るダイ…。
「父親を追えば必ず魔族が立ち塞がるわ…、どうしたらいいの…」
「魔族は俺が残らず排除してやる」
すでに歩けるまでに回復していたバトがいつの間にか病室に来ていた。
「その前に、マスター、ダイさん、アキム騎士団長と何があったのか、それを教えてくれ」
「それは…」
暗い表情のまま口ごもるリコ…。
「バト、聞いたらもう引き返せないぞ?」
元々強面のダイが真剣な表情で問いかける。
「構わない。俺はハナをこれからも守り抜く。過酷な運命があるなら、共に背負う!」
「バト…、あなた…」
リコとダイはこの時初めて気付いた、バトは自分達同様、いやそれ以上の想いでハナを見ていたことを…。
ゆっくりと深く息をのみ、ダイは当時の話を始めた…
―――――――
南の砂漠の町が魔族の大進行を受けたとき、
俺達アキム近衛小隊は最前線にいた…。
相当な数の魔族、魔物を倒していた、しかし、親玉と思われる魔族は桁違いの力を持っていた。
次々と仲間が倒されていくなか、意を決した団長は単身で親玉に立ち向かったが敗れ、瀕死の状態となったとき、父親の窮地を察知したハナ(5歳)が王都からテレポートで飛んできたんだ。
幾多の戦闘を経験してきた俺でさえも目を疑うほどに当時のハナの能力は人間離れしていたんだ。
既に興奮状態のハナは巨大な聖魔法で親玉を圧倒したが、親玉は瀕死の団長とともにダークゲートで何処かに消えてしまった…。
父親を失ったハナはさらに暴走し、泣き叫び残った魔族全てを消滅させ、深い眠りに落ちた。
治療を受け王都で再び目覚めたハナは脱け殻になっていた。
思い出さない方が幸せだろうと、
俺達はハナを母方の祖母に預けた…。
それからは俺達からハナに接触することを避けてきたんだ…。
―――――
「あの時、城内に侵入した魔物もハナの潜在的な力に引き寄せられた可能性が高いの…」
小さく言葉をつなげるリコ。
「成長につれて、力が隠しきれなくなると判断した俺達は冒険者になることを薦めた。その方が身近で守れると思っての事だ…」
「なぜその時に話してくれなかったんだ」
「ここからは推測でしかないが…」
ちらりとリコに目をやり、話して良いものか?という顔をするダイ。
「ハナちゃんはオヴェリア姫の生まれ変わりの可能性があるわ…」
「なっ?!」
「そうとでも思わなければ説明が付かないんだ、俺達は実際にハナの力を見ている。あれは今の人間が扱える魔法ではない。」
「団長がよく話してくれていたの…、娘はいつも夢の中でオヴェリア姫に会っていると、幼子だから無邪気に話してくれていたらしいわ…、それに母方の血筋は大昔は"聖都"の王家の系譜だったとも言っていた…」
「聖都…」
「今はアビスヘイムと呼ばれているオヴェリア姫の居城よ…」
信じられないという表情のままバトは言葉を失い黙り込んでしまった…。
「バト、推測でしかないとはいえ、これはあまりにも大きすぎる話だ、今なら…」
ダイは身を引くように諭そうとするが…、
「なおさら…、俺は…、俺の命に代えてもハナを護る!おとぎ話のように一人で背負わせて死なせてたまるか!オヴェリア姫の転生した姿だったとしても、ハナはハナだ!」
決意を新たに青年は1歩踏み出そうとしていた。
眠り続ける少女の胸元で紫水晶がキラリと呼応するかのごとく光輝いていた…。
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