第27話 残響の荒野

『我ハ、人間ヲ滅ボス者…』


「キリ…??」

 すっかり変貌してしまったキリの姿を、現実を受け止められずにいるハナ。


「バトも下がって!様子がおかしいわ!」

 リコが叫ぶ!


『人間ノサンプルヨリ情報ヲ取リ、オ前ヲ探シテイタ…ハナ』


(サンプル…??)


「まさか?!団長の…!」


(え…お父さん?)


「こいつ…魔落ちなんかじゃねぇ!魔族だったのか!!」


『人間ニ成リ代ワリ10数年、ヤット見ツケタ…』


(元から魔族?それってどういうこと??)


『我ガ名ハ "キル" キリハ記憶ヲ移シ換エタ化身ダ…』


「自分を封印してまで街に潜入していたなんて…」

 青ざめた顔、顔には汗が滲んでいるリコ。


『サァ、来イ。ハナ…、我ノ元へ…』


「させるかよ!」


『スラッシュ!』


 大剣を扱っているとは思えないほどの速さで斬り付けるバト!


 甲高い金属音!

 バトのスキルはあっさりと片手剣の一振りで流されてしまった!


『小僧…、死ニ急グナラバ引導ヲ渡シテヤロウ…』


「やめて!」

 無我夢中でハナは叫んだ!

 悪気の塊となったキリ(キル)がバト、リコでさえも太刀打ちできるような相手ではないことはハナのような初心者でも明白だった。


 キルの剣がバトの喉元目掛けて振り下ろされる!

「くっ!」

 大きすぎる悪気の威圧で動けないバト!


 バトに剣が突き刺さろうとしているその瞬間、誰もが目を疑った…


 キルとバト、その後ろにリコ、さらに後方に下げられていたはずのハナが、二人の間に立ち塞がっていた!


 そして、キルの剣はその小さな少女の腹部を貫通し、バトの目と鼻の先で止まっていた。


「ハナちゃん!!!」


『オ前ハ!ドウヤッテ!』


(な、なんでこんなことに…、あぁ…凄く痛い…アタシ、ここで死ぬのかな…)

 ハナは大量の出血で遠退く意識の中、自分が死守した騎士の顔をぼんやりとした輪郭だったが、目に焼き付けるようにただ真っ直ぐ見据えていた…


「バトさん…ごめんね…お守り…効かなかったのかな……」


 ガクッと力尽きハナは地面に無造作に倒れ落ちた…


「ぅ…うおぁぁぁぁぁ!」

 声にならない叫びをあげるバト。


「ハナちゃん!!!」

 目の前で起きたことを認識するのが精一杯で名前を呼ぶことしか出来ないリコ。


 動かなくなった少女を抱え、自分の無力さに彼はもう泣き叫ぶことしか出来なかった…


『哀レ…、選バレシ者ト思ッテイタガ…所詮ハ人間カ…』


『てめぇぇ…!!!殺す!!』

「ダメよ!バト!!」


『リミットバースト!!!』

 濃いオレンジ色のオーラがバトの体から溢れ出す!

 魂のオーラを燃やし、限界を越えた力を出す、騎士にとって捨て身のスキルだった。


『トルネードスラッシュ!』


 剣圧によって時空が歪み渦を巻く!

 吸い込んだものをボロクズのように斬り刻む騎士が扱うスキルでも最上級の大技!!


『コ、コレハ…タカガ人間ニコンナちからガアルノカ…』


 隙をついてリコがハナを抱えて後退した。


「あぁ!なんてこと!また私達はこの子に全てを背負わせてしまうなんて!!!」

 大粒の涙を流し、ハナを抱き抱えたまま叫ぶリコ。


 激しい雷風と轟音のあと、左半身が吹き飛んだキルがバトの前に震えながら立ち尽くしていた。


「くそ…足りないのか…」

 精も根も尽き果てたバトは膝を落とし、もはや動けない。


『ググ…コレ以上ハ人間界デハ回復デキン…』


『ダークゲート!』

 黒い稲光と共に出現した渦に入り、キルは一瞬にして何処かに消えた…。


 荒野にはリコの泣き叫ぶ声と、

 バトが放った嵐の残響が響き渡っていた…

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