第16話

「ごめん、央」

声をかけても、央は聞こえていないようにずっと泣いている。そっとベッドに腰掛けて、頭を撫でる。

「央、ごめんな」

「…もう、やなんです。期待するのも傷つくのも」

ベッドに突っ伏したまま央が言う。

「旅行のあと、就活の準備で忙しいって言われて会えなくなって、おかしいって思ったけど確かめたらだめになる気がして。連絡できなくなって」

「うん」

「そんでもあきらめきれなくて、就活終われば会ってくれるのかなって待ってました。そしたら先輩、彼女できたって」

「…ごめん」

自然消滅のつもりでいた。央がそんな気持ちでいたなんて。

「ああ、やっぱり男は無理だったんだって。あきらめようって。がんばって、がんばってやっと今日区切りにしようと思ったのに…!」


ひどいことをしてる。客観的に見ればそう思う。央の気持ちに比べれば自分の衝動はまだまだ信用ならないのかもしれない。だけど、泣いている央から離れたくない。そっと抱きしめると、びくりと反応する。

「ごめん…長いこと、自分の気持ちもわかってなくて」

央はじっとしている。きっと、じっと待っている。

「好きだよ、央」

反応しない央が心配で、突っ伏している肩を開いて顔を見る。央の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

「信じません…!先輩が俺のこと好きなわけない」

「うん、俺も長いこと気づいてなかった」

ごしごしと袖口で目元をこすって、赤くなっている。やめさせようと手首をとる。

「離してください。もう、帰って」

言葉の割に力は弱い。言葉は厳しいけど、央は全身で孝史のことを好きだと言っているように見える。恨み言も、自分のひどさがよくわかったが、気持ちをぶつけられて嬉しい気もする。いつも央は嫌われないように遠慮していたようなところがあった。央を好きだと認めてしまうと、さらけ出すことが怖くなくなってきた。央もさらけ出してくれる方が嬉しい。


「まだ離れたくない」

思ったことを素直に口にする。驚いたようにこっちを見ている央の赤い目元に唇を落とす。逃げるのを追いかけて、口づける。何度も。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る