第15話
棚に置いてある青い器に見覚えがあった。孝史が焼いたものだ。
「あれって…」
視線に央も気がつく。
「違います!あれは…」
央が口ごもる。孝史自身は気に入っているが、けしていいものとは言えない。あんなものをわざわざ持っているなんて(しかも駆け出しの陶芸家が)信じられない。
「央って俺のこと、まだ好きなの?」
考えず、ぽろっと言ってしまった。あんなもの持ってる理由が他にない。央の顔がみるみる顔が赤くなる。
「ち、ちが…」
可愛い。可愛いという気持ちに胸をわしづかみにされて、勢いでキスをする。さっきまで死ぬほど不安だったのに、何も考えられなかった。
「…!」
久しぶりに央に触れる。抱きしめた体は骨っぽい。間違いなく男性の体。だけど、央だなあと思う。少し痩せたかもしれない。唇は甘い。逃げる舌を追いかけて、つかまえる。気持ちいい。
キスってこんなに気持ちよかったっけ?
「…っ、や…」
央が身をよじって逃れようとするけど、離したくなくて続ける。気持ちいい。
「な、何で…」
ようやく解放された央が、涙目で言った。
「何でこんなこと、するんですか」
「ごめん、可愛くて我慢できなかった」
正直に言うと、央は顔を赤くして、怒ったような困ったような表情になった。
「意味、わかんな…」
「言葉のとおりだけど」
今も可愛い。近くで見る央は可愛い。前よりそう思う。
「何で?せっかく今日で終わりにしようって、わざわざ行ったのに。先輩、声かけたとき普通だったじゃないですか…!」
そうか、それで来てくれたのか。
「うん。来てくれた央を見て、自分は何もしてないなって。自分はどうしたいんだろって思ってさ」
央が痛みをこらえるような表情になる。
「あの時はごめんな。勃たなかったのが気まずくて避けちゃって。央のこと、傷つけた」
「もう、いいです」
「勃たなかったのも、考えすぎでさ。央にしょぼいと思われたくなくて」
「もう、いいです…!」
央が顔を上げる。涙が今にもこぼれそうだ。
「せ、先輩は謝ってスッキリするかもしれないですけど、俺はまたこれで忘れられなくなるんです!ただでさえずっと引きずって、死ぬほどしんどかったのに…」
涙がこぼれる。
「央」
「何でキスなんかするんですか。何で来たりするんですか。謝ったりしないで…!」
「央」
腕をとって、引き寄せようとするけど振り払われる。
「もうやだ!」
央はフラフラと部屋の中へ行き、ベッドに突っ伏して泣き出してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます