第14話

久しぶりに見る央のアパート。窓には灯りがついている。一人じゃなかったら?と怖くなったが電話もできず、とりあえず部屋の前まで行く。


インターホンを押すだけなのになかなか動けない。かつてこんなに緊張したことがあっただろうか。大学も付属からの持ち上がりだし、就活もプレゼンも大して緊張しない。緊張しないのは、失敗してもいいと思えるからだ。絶対に受かりたい企業なんてなかったから、緊張しなかった。だけど今は指が震える。


何とかインターホンを押す。古いタイプなのでブザー音がなるだけで、ドアが開かないと話せない。ドアの向こうに気配を感じる。

「央、遅くにごめん。…武田です。さっきは、ありがとう。もうちょっと話がしたくて」

扉は開かない。

「声、かけてくれてありがとう。本当は話したいと思ってたけど、できなかったから央がかけてくれて助かった。話せないまま卒業するの、やだし」

扉はまだ、開かない。もしかしたら開けてくれないつもりかも。それならそれで、気がすむまで話そう。

「これが最後かもしれないから、謝っとく。あの時のこと。温泉に泊まったときだけど…」

いきなりドアが開く。

「ちょっ…!こんなとこで何話す気ですか!」

「あの時俺はイヤで勃たなかったわけじゃなくて…」

「ちょっと!聞いてますか!」

引っ張られて玄関に入る。バタンとドアが閉まる。

玄関で向き合う形になる。

「…ごめん」

「びっくりしました。…こんな夜遅くに」

央がうつむく。

「うん、もうちょっと話したくて。…あの時はごめんな、俺…」

「もう、いいです」

央は部屋の中へ戻ろうとする。

「もうさっき話しましたし、気が済みました」

「ちょっ…」

まだ何も話せていない。あの時のこと謝って、気まずくなったことを謝って、それで。

できればここで終わりたくない。慌てて央の手をつかむ。意外と力が強くて、こっちがよろめく。部屋の中に倒れ込むような形でバランスを崩してしまった。

「大丈夫ですか」

央が振り返る。手をついて起き上がる。

「だ、大丈夫」

かっこ悪いことこの上ない。だけど仕方ない。久々に見る央の部屋が目に入る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る