第13話

「もう、帰るんですか?」

変わっていない。いつもの飄々とした感じから、孝史と話すときには少し幼い感じになる。

「うん、央は二次会行かないの?」

「…はい。武田先輩に会えるかと思って、来ただけなんで」

央の言葉に、驚きと期待がないまぜになる。いや、そんな意味じゃないだろ、きっと。

「そっか、俺も会えてよかった」

「…本当にそう思ってますか?」

シリアスな切り返しに戸惑っている間に、央は笑顔になった。

「卒業おめでとうございます。それだけ言いたくて」

言うなり、身を翻す。

「央…!」

もう央は人混みの中に消えていた。

自分に会うために来たと言った。わざわざ追いかけて声をかけてくれたのはおめでとうを言うため?

もしかしたら央も、自分のように喉の奥に引っかかったままなのでは。

でも、引っかかっているものをどうすれば?もう、別れて一年以上経つのに?

そうか。一年以上経つ。だから、自分からは声をかけられなかった。飲み会で央を見たとき、話したいと思ったができなかった。

央は、勇気を出して追いかけて来てくれたんじゃないだろうか。いつも通りで、とてもそんな風には見えなかったけれど。いや…確か、好きだと言われたときもそうだった。いつも通りに見えたけど、本当はすごく緊張していたと後から言っていた。


ずっとこうだ。央が好きだと言ってくれて、つきあって。こうして追いかけて来てくれた。

自分は一体どうしたいんだろう?央に甘えて、流されて、つきつめて考えて来なかった。

今どうすれば、後から後悔しないんだろう?

二度と会えなくて本当にいいのか?


陶芸をやろうと思ったときよりもずっと強い衝動に突き動かされて、走り出す。央に、なじられてもいい。冷たくされてもいい。ちゃんと好きだってことを伝えよう。なんで、この感情を置いてけぼりにしてたんだろう。




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