第12話
ゼミの卒論を早々に仕上げて、年末に提出しに久しぶりに登校した。冬休みが始まってるので学生の数もまばらだ。ふと思いついて、サークルの部室に行ってみた。
棚にずらりと焼いた器が並ぶ。央の作品はすぐわかる。新しいものがほとんどなくて、サークルにも来てないんだなと知る。
優しい央の器。触ると温かいような錯覚に陥る。もっと優しくしてあげたかったな。どの器も好きだ。持ち帰りたい衝動をこらえて、埃をかぶった器を拭いてやり、撫でる。いい器だとしみじみ思う。人の器はまずいが、自分のなら思い出に持ち帰ってもいいかと作品を探す。綺麗に青が出た中鉢があったのだが、なぜか見当たらなかった。ずっと放置してたので、誰かが誤って割ってしまったかもしれない。残念だが、ないものは仕方ない。名残惜しく思いながらも、部室を出た。
大学4年間、楽しかったけど央とのことは喉に引っかかった骨みたいに残っている。だけどもう、仕方がない。央も今更何か言われても迷惑だろう。最近、コンクールに入賞して、楓さんと二人展をやるという記事を見かけた。もう央は駆け出しの陶芸家なのだ。春からサラリーマンになる自分とは、違う世界の住人なのだ。
気がつくとサークルの部長が締めの挨拶をしていて、卒コンも終わるところだった。久しぶりに見た央はまだ隅で後輩たちに囲まれている。飲まされて少し赤い頬が可愛い。
がやがやと外に出ると、仲田に肩を組まれる。
「行こうぜ、次」
「いや、俺はいいよ」
何でだよ、と食い下がられるが引っ越しの準備があるから、と逃げる。実際3日後には引っ越すが、全く準備をしていない。勤務先は都内だが実家からは通いづらく、これを機に独り暮らしをすることになったのだ。
盛り上がる集団からそっと抜け出し、歩き出す。央の顔を見られて嬉しかった。一人で噛みしめつつ帰りたい。
「武田先輩…!」
呼びかけられて、振り向く。
央だった。
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