第11話
結局、最後までできなかった。
ごめん、と謝った孝史に央はとても傷ついた顔をしていた。そしてそれを必死に隠していた。
「すいません、訳わかんなくなっちゃって…き、気持ち悪いですよね」
「違う、そんなこと思ってない」
本当に思っていない。ただ、怖かっただけだ。比較されるのが。央がいたであろう、あの大人たちの世界。あそこの住人たちと比べられるのが。
でもそれをうまく伝えられなかった。
「すいませ…」
央が涙をこらえて、顔をそむける。背中から抱きしめるけど、何も言えない。
「…ごめん」
震えながら央は、こちらを振り向かずに、先輩は悪くないです、と小さな声で言った。
その旅行の後、気まずいまま遠ざかったのだ。
最初は少し時間を置くつもりだった。だけど央も忙しそうなそぶりで、サークルにもあまり来なくなった。先に距離をとろうとしたのは自分なのに、避けられると傷ついた。あんなに俺のこと好きそうだったのにと腹が立った。そしてそのまま、連絡をとらなくなった。
先に避けられた央はどんな気持ちだったろう?
その後就活が始まり、すっかり忙しさにまぎれて央のことをあまり考えなかった。学内で見かけても声もかけづらかった。遠くから見る央は変わらず飄々としていた。一緒にいた頃の乙女な様子の方が夢なんじゃないかと思うくらい。
四年になる頃にゼミの同期に告白されて少しつきあった。さばさばした頭のいい女の子で、友人の延長のようで楽だった。セックスにも問題はなく安心したが、違う人と体を重ねることで逆に央を思い出した。
央との時の方が興奮したし、ドキドキした。上気した頬、抱きしめた時の体の感じ、湿った下着、あらゆることがいやらしかった。思い出して勃起した自分に驚いた。今更、と笑ってしまった。
気持ち悪くなんてなかった。可愛かったし、好きだった。央といるのは楽しかった。そんな気分でいたら早々にふられてしまった。そりゃあそうだ。
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