第7話

「良かったら、打ち上げあるからおいでよ」

楓さんが人懐こそうな笑顔で誘ってくれた。央も行きたそうなそぶりだったので参加することにした。お洒落なダイニングレストランを貸し切りにしての打ち上げは、「ザ・アート業界」といった感じだった。陶芸家、バイヤー、雑誌編集、ギャラリーオーナー。

孝史は初めての大人の世界に気後れしてしまったが、央は普段と全く変わらずマイペースだった。ソファーにどっかり座り、どこからかとってきたオードブルをもぐもぐ食べている。

「先輩、これ美味しい」

「どれ?」

「何かのテリーヌ?ペースト?」

「あっ、俺無理かも…そういう得体の知れない固めてる系のたべもの」

央が吹き出す。

「固めてる系って、くくり雑すぎるでしょ」

二人で笑いあう。


「央くん、来てたの」

どこかのギャラリーオーナーらしき人物が央に話しかける。ちらりと視線を投げられるがすぐに央に戻される。最近、どう?いいの焼けたら持ってきてね、オーナーは愛想よく話すが央はいつも通り。全て「はい」で済ませている。

そのオーナーを皮切りに、何人かが次々やってくる。手持ちぶさたになった孝史の隣にはいつの間にか楓さんがいた。


「人気あるんだよ、央」

「…本当ですね」

知らない大人に囲まれる央は、なんだか知らない人みたいだ。

「受賞歴の割に寡作だからね。今は学業優先だって」

「央の器、いいですもんねえ。愛あふれるいい子なんだなっていう感じの。普段は飄々としてるのに」

楓がお、という表情をする。

「見る目あるね。僕の器はどうだった?」

「央が影響を受けてるのがよくわかります。似てる部分がありますよね。でも、楓さんの方がどっしりしてて力強い」

楓がにっこり笑う。

「その通り。僕の方がメンタル太いからね。愛し愛されてるし」

パートナーらしき人にちらりと目線を投げる。どうやら楓さんもゲイらしい。パートナーはがっしりしたカメラマンだった。央は楓さんに色々影響されてるんだな。

やはり、アート業界にはゲイが多いんだろうか。央を見ると、まだ囲まれている。髭の男の距離が近い。ああいうのが当たり前なのかな。ちりっと胸に嫉妬心がわきかけたが、当たり前ならば仕方ない。一般的な常識とはまた違うのかもしれない。

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