第6話

つきあった当初はうまくいっていたと思う。央は孝史を好きな気持ちを隠さず、素直で可愛かった。みんなから一目置かれている央にそんな風に思われていることは何だか誇らしかった。

陶芸家の叔父さんや研究者の両親に囲まれて育った央には才能やセンスはあったが一般常識に乏しく、いちいち感心してくれるのも嬉しかった。


「武田先輩は、本当なんでも知ってますね」

「や、普通でしょ。お歳暮知らないの衝撃なんだけど」

「いやー、年末に毎年ハムがあるなーとは思ってたんですけど…」

央はお歳暮を知らなかったらしい。遅いクリスマスだと思っていたそうだ。

「ありえないよ。遅れすぎでしょ」

「いや、残り物に福がある的な」

「もはや何なの」

二人で笑いあう。サークル帰りに二人で歩く道が好きだった。央のアパートへ続く道。孝史は実家なので央の部屋によく行った。


つきあいはじめたのが秋の終わりで、すぐに冬だった。二人で鍋を食べて、部屋でごろごろしてるときにキスをした。央は真っ赤になって可愛かった。そのまま押し倒そうかと思ったが、具体的な手順がイメージできず躊躇した。女の子とは違うのだ。ふと、央は経験あるのかなと気になった。

叔父さんの個展に連れて行ってもらったのはその次の日のこと。


そのまま泊まった朝、央が「そういえば叔父さんの個展今日最終日だ、見に行きます?」と言ったので、一緒に出かけることにした。


初めて見た叔父さんの個展…沢村楓さんの作品はどれも素晴らしかった。央は楓さんの影響を多大に受けていることがよくわかった。楓さんの方が力強いが、似ている部分も多い。

楓さん自身もとても気さくな人だった。

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