第5話

益子では結局茶碗とカップを買った。陶器市はとても満足だったが、一度意識すると、央は今まで気づいてないのが不思議なくらい孝史を見ていた。しょっちゅう目が合うし、よく見たら同じシリーズの器を買っているし、乙女のような言動に見てるこちらが恥ずかしくなった。


いつも飄々としていて、アーティストっぽいマイペースさでみんなから一目置かれている央が、こんな風に自分に夢中なのは何だかむずがゆい。


そんな状態をいつまでも放置しておけず、益子から戻って3日後、孝史は央につきあおうと言った。これまで女性としかつきあったことがないので、少し悩んだがまあいいかと思った。

乙女のように恋する央は可愛いし、顔は好みなわけだし、なんとかなるだろうと思ったのだ。あまり深く考えていなかった。

これまでつきあった彼女に一番よく言われたのは、「もっとちゃんと考えて」。孝史は眼鏡のせいかそこそこ賢そうに見えるがあまり物事を深く考えない。今回もそうだった。

央はびっくりするくらい喜んでいた。ダメだと思ってた、と小さな声で言った。先輩は男なんて無理だと思ってました。だけど一生言えないなら今言っちゃおうって…と言った言葉は涙声だった。肩を抱くとびくりと震えたので、背中を撫でた。こんなに喜んでくれてよかったなと心から思った。



「武田~!」酔っぱらった仲田が隣に来た。央は部屋の隅っこで後輩たちと話している。

「お前はいいよなあ、いつもなんかスムーズでさ」

「スムーズ?何が」

「なんだかんだいつも彼女いるしさ。器もそこそこいいの作るし、就活も内定早かったし…」

「それは単なる器用貧乏だろ。就活も高望みしなかったし」

自分で言ってその通りだと思う。運動も勉強もそこそこできるが、孝史にはこれといって特出したものはない。せいぜい陶芸にはまったくらいだ。

あまり夢中にならないし、妥協するのも早いのだ。就職活動も自分に行けそうな専門商社にさっさと決めた。

ああでも、思い出してみると央のことは好きだったな。可愛かったし、いとおしかった。別れることになったのは、自分のせいだけどもう少しうまくできたんじゃないかと思う。

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