第2話

 綺麗といっても央はさほど派手な顔立ちではない。どちらかというと薄い顔だし、女性っぽくもない。ただなんというか、清潔な感じがする。少し薄い唇とか、長めの睫毛とか、肌のきれいさとか。単に好みなのかもしれない。


 とにかく部室で初めて出会ったとき、陽光射し込む窓を背に土を練っている央を見て、輝いているように見えたのだ。央はひとつ下だったけれど身内に陶芸家がいるらしく、いくつかコンクールに入選したことがあるらしかった(後から知った)。その時はそんなことも知らず「一緒にやります?」と声をかけられ大喜びで隣で土を練った。その日に入部したのは言うまでもない。

 入ってみると真面目半分、遊び半分くらいのサークルでちょうどよかった。山に土を採りに行ったり指導者にアドバイスをもらいながら作陶することもあれば、有田や美濃、萩といった有名な陶器の産地や陶器市に旅行がてらみんなで行くこともあった。飽きっぽい性格の割に、陶芸熱はなかなか冷めなかった。央がいたことも影響している。央の作る器の美しさに魅了されていたからだ。央の作る器は、優しかった。本人はいたって飄々としていてマイペースで、あんまり他人に関心を持っていないような雰囲気なのに、器は慈愛に満ちていた。きっと本当はすごく優しいんだろうなと器を見るたびに思った。


入部して3か月後に、央から好きですと言われたときは本当に驚いた。

「えっ」

驚いて言葉を失った。ちょうど部室で二人きりだったタイミングで、突然のことだった。

「彼女と別れたって聞いて…急に言わなくちゃと思ったんです、すいません」

彼女と別れたのは事実だ。陶芸だ旅行だとかまわなすぎて振られてしまった。さほどダメージがなかったことが逆にショックだった。

「いや、謝んなくていいけど。何で?俺なんかのどこがいの?」

「あ、俺ゲイで。まず好みだってことと」

まじか。そうだったんか。衝撃。

「いつも褒めてくれて優しいなと思って」

「それはおまえの器本当にいいから」

「はい。それでいいなって思ってたんですけど、器のさわり方が何かえろくて」

「えっ」

「なんかこう…いとおしい感じで撫でるじゃないですか、器を」

自覚がなかったので再び驚いた。確かに初めて出会ったとき、何て綺麗なんだとは思ったが恋愛対象だとは思っていなかった。器もはたから見ればセクハラまがいのことをしてたとは衝撃だ。

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