ガス、博物館、ハンカチ

 ハンカチがはらりと落ちた。博物館の冷たい床は音を立てない。持ち主の若い女性が振り向いた。薄暗い展示室に細く白い手首がひらめく。柔らかな色のフレアスカートの印象に反して、足元はスニーカーだ。ゴム底がきゅっと鳴る。髪を耳にかけながら屈む。無駄のない動作。立ちあがった彼女と目が合う。猫のような双眸だ。背景には非常扉、味気ないフォントが消火設備の説明をする。ハロゲン化物、ガスによる消火……避難について。ふわりと空気が揺れた。彼女はこちらに気づかなかったかのように展示室を泳ぎはじめている。

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