バス、空、苗字

 幼稚園バスには青空の絵が描いてあった。六歳までの記憶で色がついているのはそれだけだ。ほかは全部、セピア色の濃淡に変換された映像ばかり。鮮やかな水色の地に、ぺったりした白一色の雲。顔もろくに覚えていない先生の、はきはきした声。朝はいつも母の機嫌が悪くて、居心地が悪かった。

「あおいちゃん、おはよう」

「みさきせんせい、おはよう」

 先生の「みさき」が名だったのか苗字だったのかも忘れてしまった。なのに昔々のワンシーンだけが色をもっている。

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