冒険家、ケーブルカー、宝くじ

 冒険家気取りで山に来て、結局ケーブルカーに乗ってしまうような人だった。宝くじを買ったら必ず当たったつもりでお金の使い方を考えはじめてしまうような人だった。彼は私の人生に現れたおそらく最初の「考えなし」だった。付き合ったのは気の迷いとしか言いようがない。目新しさに惑わされたのだ。けれどどう言い訳をしたところで、すでに彼は私の精神を構成する一部になってしまっている。一緒に見た景色、食べたもの。してあげたことやしてくれたこと。写真のデータは全部消してしまったのに、そうしたせいでよけい記憶に刻まれてしまったような気がする。

 だから何だという話だが時々、前はバカにしていた宝くじを買いたくなる。

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