水路、スイカ、幽霊
街をくまなく走る水路はどれも澄んだ水が豊かに流れている。住みよい場所なのだろうな、とさしたる感慨もなく眺めているが、連れの方は騒がしかった。目に映るあれこれをいちいち指差して言葉にして、私に同意を求めてと忙しい。
「あ、ほら。あそこにスイカが。縄で縛って沈めてあります。盗む人もいないのでしょうか? 瓜を冷やすくらいなんですから、お水も冷たいんでしょうね、いいなぁ」
「あのねぇ、きみ」
つとめて小さな声を出す。
「物珍しいからっていちいち話しかけないでくれないか。うっかり答えてしまいそうだよ。だいたいきみは幽霊なんだから、スイカも冷たい水も必要ないだろう?」
「ちゃんと目で楽しんでます。それに、うるさかったらさっさと消してしまえばいいんですよ。あなたなら出来るでしょう?」
問いを無視して路地を曲がる。水の匂いがほんのわずかに遠ざかった。
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