エスカレーター、砂糖、珊瑚

 エスカレーターの上りで君が一段先に立つ。それで身長差はきっかり埋められて、得意げな視線がまっすぐに届く。ガラス細工の珊瑚が耳元で揺れている。僕は君のことをまだそれほど多くは知らない。出会って三か月、デートは二回目。


 だけど記憶の中のメモ書きには、どんな小さな情報だって大切に取ってある。たとえば小柄な割に大食いなこととか、コーヒーに砂糖は入れないこととか。あと、首筋に双子のほくろがあることなんかも。


「ほら、前向いて。危ないから」


 肌に触れる勇気はまだない。何も入らなそうな小さい鞄をちょいとつつく。君は少し頬を膨らませて前を向いた。

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