海苔、頭痛、省エネ

 キッチンから戻ったミヤマの長い髪は、いまなお寝癖で乱れていた。あたしはテレビゲームをいったんやめて彼女を観察する。可愛らしい茶碗の中で、ご飯は冷凍したときの形状のまま湯気を立てている。味付け海苔のパックの口は開きっぱなし。


「どうしてそうも雑なのかね。学校で猫かぶってられるのが奇跡だよ」

「なかなかの演技派でしょ」


 気だるげに海苔をちぎりながら彼女は首を傾げた。パラパラと黒い粉が白米へ落ちる。


「なんで外だと優等生ぶってるの」

「省エネ。やっかみとか面倒なのよ」

「完璧人間のほうがやっかまれるんじゃないの?」

「そうかもね」


 頭痛でもするようにこめかみに手をやって、彼女は続ける。視線はあたしに向かない。


「でも、そういう型にはまった人間のほうが大人は好きなの」


 校則通りの制服姿を思い出して、あたしは納得した。確かに彼女は大人たちに守られている。ひとりでいることが多いのに嫌がらせの一つも発生しないのは、あの冷ややかな眼差しだけによるものではないのだろう。


「あたしなんかに本性みせていいの?」

「いいんじゃない」


 彼女の謎は尽きそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る